3年間続いていたイベント制限がなくなって初めて迎えた2023年夏。今年は全国各地でイベントやお祭りが行われ、名古屋城でも恒例の「名古屋城夏まつり」が、8月5日~15日(14・15日は台風により中止)に開催されました。
春夏秋冬、1年を通してお祭りが実施されている名古屋城ですが、開園時間を延長して開催される夏まつりは「大盆踊り大会」など、来場した人が参加して楽しめる催しが盛り沢山の人気イベントです。今回は、8月7日(月)の模様をレポートします。
平日も毎日開催!名古屋城の夏の風物詩
天守閣を眺めながら踊る浴衣姿の人も大勢いました。
名古屋城の夏の風物詩「名古屋城夏まつり」は、例年お盆までの約10日間、連日行われているイベントです。今回訪れたのは平日の16時頃だったので、夏休み中とはいえ人出は少ないかと思いきや、正門から入ると城内はすでにほどよく賑わっており、この日は曇り空で日差しも弱く過ごしやすかったからか浴衣姿の人も数多く来ていました。早速、メインイベントの「大盆踊り大会」が始まるまで、おまつり会場の各所を見て回ることにしました。
名古屋城ならではの屋台グルメや遊びを満喫!
飲食ブースの背後にある西南隅櫓は期間限定で特別公開されていました。
城内に入って気付いたのは、来ている人の顔ぶれが多彩だったこと。大学生らしきカップルや小さな子どもを連れたファミリーが多かったのは平日だったからかもしれませんが、バックパックを背負った海外からの旅行者や留学生らしきグループなども多かったのは名古屋城ならではでしょう。
外国人の顔ぶれも多彩。浴衣の外国人もチラホラ見かけました。
さて、そんな人たちを横目にまずは腹ごしらえをします。「鯱食堂」と名付けられた飲食ブースに向かうと......。手羽先や名古屋コーチンの焼き鳥、味噌カツ・味噌どて・味噌海老フライ丼といった名古屋グルメ、たません・たこ焼き・冷やし胡瓜などの定番屋台グルメなど、目移りするほどラインナップが豊富。また、西尾抹茶や岡崎果樹園のぶどう・いちご、蒲郡みかんを使ったかき氷、田原ポークのフランクフルト、三河もち豚焼きそばなど、愛知県の特産品を使用したグルメやスイーツ・ドリンクなども充実していました。
「鯱食堂」は一般的なお祭りの屋台と違って落ち着いた店構えが特徴。すべてが木で統一され、洒落ていて粋な佇まい。
無料レンタルのござを敷いて好きな場所で寛いで過ごせたのも◎。日差しが気になる方のために和傘や有松絞の日傘をレンタルすることもできました。
西之丸に設けられた「金鯱座」の一画に「鯱広場」が。大きな幟が目印。
「鯱食堂」の向かいには、木製のあそび道具が用意されたゲーム広場「鯱広場」が設けられていました。ゲームといっても、身体を使って楽しむ完全アナログゲームばかりです。名古屋城オリジナルゲーム「シャチ釣り」「シャチくじ」をはじめとして、「やぶさめ」「けん玉」「竹馬」「水でっぽう」など。たくさんの子どもたちに交じって、子どもの親や大学生などの大人たちも楽しんでおり、昔から伝わるシンプルな遊びの奥深さを実感させられました。
木馬にまたがって弓矢で的を狙う「やぶさめ」。大人の好奇心もくすぐる遊び。
竹筒の中に水を吸い上げて的を狙う「水でっぽう」。友達と白熱する子どもたちも!
「シャチ釣り」は、風船釣りの要領で木製のシャチを釣り上げます。シャチの咥えている紙がくじになっていて、大当たりがでるとプレゼントも!
「尾張藩の木の文化」をイラストと文章で紹介。「へぇー、そうなんだ!」という知る楽しさを味わえました。
飲食ブースの一番端には「木曽の森と名古屋のまちのつながり」を紹介した展示コーナーも。屏風絵のようにイラストと文章が並び、眺めながら読みすすめるだけで、本丸御殿復元の際に大きく関わりのあった裏木曽の森と名古屋のまちの関係について知ることができました。
(名古屋の城とまちをつくった木のおはなしは以前のお城noteで読めます!)
名古屋城オリジナルクラフトビールも飲めました!
クラフトビール専用ビアスタンドが登場したのは今年が初!
個人的にこの日一番注目していたのが、「鯱食堂」の一角に設けられた特設ビアスタンド。ここでは、名古屋市内の3つのブルワリー(醸造所)で作られた7種類の個性豊かなクラフトビールを楽しめました。しかもその中のひとつが、新発売したばかりの名古屋城オリジナルクラフトビール「HOPPING SHACHI」だったんです。「HOPPING SHACHI」は、名古屋で初めてのクラフトビール醸造所として知られるY.MARKET BREWINGと名古屋城のコラボにより誕生したクラフトビール。金鯱をイメージさせる鮮やかなゴールドカラーの「HOPPING SHACHI」は、のどごし抜群でお代わりがグイグイ進む爽快感と美味しさでした!
キンキンに冷えた「HOPPING SHACHI」で乾杯!
おみやげブースでは、「HOPPING SHACHI」の缶ビールも買えました。
「HOPPING SHACHI」の美味しさは名古屋の水が支えている!?
3000L以上の大きなタンクがずらりと並ぶ工場内。当然ですがめちゃめちゃキレイです。
夏まつりの初日8月5日から販売開始となった「HOPPING SHACHI」でしたが、その仕込みがスタートしたのは2023年6月のこと。2014年に柳橋で醸造を始めたY.MARKET BREWINGが2019年に新設した名古屋市西区の工場で醸造されました。仕込み初日の忙しい中、Y.MARKET BREWINGのヘッドブルワー(醸造家)である加地真人さんにお話を聞きました。
仕込みの合間にドイツ製のタンクの前でお話をしてくれた加地さん。
「『HOPPING SHACHI』は名古屋城さんからお話を頂いてスタートしたプロジェクトです。"名古屋城をイメージするクラフトビール"と言っても難しく、最初はプロジェクトに関わる方々との話し合いも難航しました。"味噌や金"などのアイデアも出ましたが、僕らが作る意味も考えて試行錯誤しました。そんな中で、元々Y.MARKET BREWINGが柳橋で作り始めたクラフトビールの方向性自体が、名古屋のまちのイメージとも重なり、名古屋城のイメージにも繋がるのではないかなと考えました」と加地さん
「HOPPING SHACHI」のレシピ。ホップの名前や量などが書いてありました。
Y.MARKET BREWINGが今までに作ってきたビールは300種類以上。その方向性の核となるものは、クラフトビールを初めて飲んだ時の驚きや感動、奥深さを伝えたいという想いだそうです。とはいえ、玄人受けするだけのものでは"名古屋城"らしくないと考え、普段飲みなれていない人でも飲みやすく、かつ驚きや楽しさのあるクラフトビールをイメージしてレシピが創られました。名古屋城がそうであるように、立派で華やかで力強くて多くの人に愛されているけれど、意味や背景やこだわりを知ると一層愛着が湧くようなビール、といったイメージでしょうか。
今回の「HOPPING SHACHI」にはペレット状のホップを使用。
ちなみにビールは水とモルト(麦芽)とホップが主な原料で、成分の約9割を占めるのが水です。つまり水がビールの特徴を決める大きな要素であるということ。Y.MARKET BREWINGではさぞやこだわりの水を使っているのだろうと思って尋ねてみると、「普通に名古屋の水道水を使っています」とのお返事。「名古屋の水道水はいろんな山系の水が注ぐ木曽川の水がメイン。きれいでおいしいと思います。季節を問わず水質が安定している点もビール造りには最適ですね」と名古屋の水道水に太鼓判を頂きました。以前のお城noteの記事にもありましたが、名古屋の水を辿ると裏木曽の山と森につながります。夏まつりのパネルにも書かれていた名古屋城と裏木曽がつながっていたことと同じように、名古屋城オリジナルビール「HOPPING SHACHI」も水を介して裏木曽とつながっていたのでした!
仕込みから約1か月半後の7月末に再訪。タンク内でビールが缶詰めを待っていました。
缶詰はタンクとつながった機械により自動化されていましたが、最終チェックや箱詰め作業は人の手が必要でした。
「今回の『HOPPING SHACHI』は、爽快感のあるのどごしやキレのあるラガータイプ。日本の一般的なビールを飲んでいる人にも飲みやすいビールになったと思います。Y.MARKET BREWINGの定番はもちろん、名古屋の定番クラフトビールになれば嬉しいですね」と加地さん。
ラベルは、名古屋城所蔵 昭和実測図の天守北側鯱詳細図がモチーフ。ゴールドのビールとシルバーの缶のコントラストが美しいです。
いよいよメインイベント「大盆踊り大会」がスタート!
木曽の木材で造られた櫓の前では記念撮影する人も多数。人が増えるにつれ、踊りの輪は東側に向けて伸びていきました。
名古屋メシや「HOPPING SHACHI」でお腹も気分も満たされた頃、「大盆踊り大会」のお囃子が聞こえてきました。いよいよ「大盆踊り大会」がスタートです。名古屋城の正門を入ってすぐのところに組み立てられた盆踊り櫓(やぐら)の周りをグルっと囲んで、たくさんの人が一緒に踊りはじめます。スタート時間の18時は日没前のためまだ明るかったですが、踊りの輪はすぐに大きくなっていきます。お揃いの浴衣を着た「日本民謡研究会」のお姉さま方や大勢の老若男女が心から楽しそうに踊っている姿が周りの見物客の気持ちを自然に高揚させるのか、踊りの輪はどんどんと大きくなっていき、気付けば提灯の灯りが風情を醸し出す宵闇が訪れていました。
簡単な振り付けだからか、多くの見物客が踊りの輪に加わっていきました。
BGMは昔ながらの定番曲「炭坑節」「郡上おどり」「大名古屋音頭」「名古屋ばやし」をはじめ、その振り付けが名古屋発祥として知られる人気曲「ダンシング・ヒーロー」、テンションの上がるヒップホップナンバー「ガッツ!!」など。踊っている人の様子に合わせた緩急のついた選曲の巧みさもあって、どんどん盛り上がっていきます。
暗くなるとライトアップされた天守閣の美しさと櫓周りの楽しそうな雰囲気が際立ちます。
「大盆踊り大会」の特別な点は、シチュエーション・規模感・緩さにあると思います。シチュエーションは、なんといってもライトアップされた天守閣を眺めながら踊れる年に一度の機会ということ。そしてたくさんの人と同じ振り付けで延々と踊れる規模感からは圧倒的な一体感が味わえます。緩さは、下手でも間違ってもいい、ただただ踊りの輪の中で楽しめばいいという自由度の高さと言えるかもしれません。
(名古屋の盆踊りの秘密は、以前のお城noteで詳しく紹介しています)
閉園時間になり、最後の曲が終わって自然に拍手が起こり幕を閉じた「大盆踊り大会」。「また明日!」や「また来年!」などの声も聞こえる中、大勢の人が帰り支度をしている様子に夏の夜の儚さも感じられ、毎年来ている人が多いというのも納得。スムーズに帰路につけた道すがら、こんな「大盆踊り大会」を行える都心近くの場所は名古屋城だけだなと思い、ありがたさも実感させられました。
「名古屋城夏まつり」は、行かれたことがない人にとっては「名古屋メシなどの屋台が並ぶイベントじゃないの?」といった想像をするかもしれません。ところが、一度夏まつりを体験してみると、お盆が近づき「そろそろだな~」という気分になってくるから不思議です。それぐらい「大盆踊り大会」にはヤミツキになる魅力があると思います。花火大会や夏フェスなど、誰にでも毎年恒例の夏の行事はあるかと思いますが、「名古屋城夏まつり」がそのひとつに加わったら嬉しいですね。個人的には、「大盆踊り大会」で黙々と踊り続けてランナーズ・ハイのような快感を味わうのが大好きなので、いまから来年が楽しみです!
Text:Toshio Sawai Photo:Yasuko Okamura / Takayuki Imai