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お城をバックに大盛り上がり!尾張・名古屋の盆踊り

日本の夏の風物詩、盆踊り。お盆にご先祖様の霊を迎え、踊りでもてなし供養するための行事ですが、尾張・名古屋の盆踊りは、全国的に見ても珍しいかたちで発展してきたものであることをご存知でしょうか?その理由を探ってみると、なんともユニークな名古屋らしさが見えてきます。

名古屋城の夏を彩る一大イベントとして恒例となった「名古屋城夏まつり」。残念ながら昨夏(2020年)は中止となってしまいましたが、2021年は2年ぶりに開催が決定。9日間連続盆踊り大会も行われます!スクリーンショット 2021-08-03 10.36.49.png2019年夏まつりの写真です。

起源も歴史もスタイルも、非常に独創性に富んでいるという尾張・名古屋の盆踊り。いまや定番となった盆踊り版の『ダンシング・ヒーロー』も、実は名古屋が発祥なのだそう。

この地方における盆踊りの発展の歴史や背景について、名古屋に拠点を置く「日本民踊研究会」の会長、可知豊親先生にうかがいました。

師範のみなさんの練習会場に潜入!

梅雨明け直後の7月のある日、盆踊りの練習会が行われるという市内の体育館におじゃますると、早くも会場は熱気に包まれていました。スクリーンショット 2021-08-03 10.37.35.png和装で集って練習に励む師範のみなさん。愛知県下はもとより岐阜県や三重県からもやってくる。

そこへ、粋な着流し姿の可知先生が登場!

民踊界の大御所と聞いて最初は緊張していたのですが、実際にお会いすると飄々とした雰囲気の物腰柔らかな紳士という印象。語り口はユーモアにあふれ、その場のムードが一気になごやかになりました。スクリーンショット 2021-08-03 10.38.03.png日本民踊研究会、三代目会長・可知豊親先生

「ここに集まっているのは日本民踊研究会の師範たちです。今日は週に一度のお稽古の日。お稽古は夏も冬もなく一年中続けているんですよ。」

盆踊りといえば夏の風物詩。それなのに真冬でも練習を欠かさないとは驚きです。

各地の盆踊り会場で、お手本となって踊りをリードする師範のみなさんの流れるような美しい所作も、どの曲にも即座に対応し迷わず踊り出す瞬発力も、すべてたゆみない練習の賜物なんですね。

昔も今も、お稽古ごとに熱心な「芸どころ名古屋」

「今日は少なめですが、いつもざっと3400名ぐらい集まります。師範たちはそれぞれお弟子さんを抱えていますから、みんな合わせたら相当な人数になりますね。」スクリーンショット 2021-08-03 10.38.38.png出で立ちはきりりと、指導はやさしく丁寧に。

可知先生によれば、盆踊りとは元来、夏に近所の広場などに建てられた櫓のまわりに老若男女が集まって自由に楽しむものなのだそう。ところが尾張地方では盆踊りを「お稽古ごと」と捉え、大勢の人たちが熱心に習う習慣が根付いているのだとか。

「宗春さんの時代から芸事が盛んで、名古屋は芸どころと言われていますが、私は名古屋は芸どころというよりも、習い事が好きな土地柄なのだと思うんですよ。いまでもお茶、お花、お琴や日本舞踊などアマチュアの方たちの多くが熱心にお稽古ごとを楽しんでおられますでしょう。盆踊りもそのひとつで、みんなで仲良くお稽古に通い、真面目に習いたがる。まあ、そういうところが名古屋らしさでもあり面白いところだね。」スクリーンショット 2021-08-03 10.39.07.pngお稽古を楽しむ人が多いのが名古屋らしさ。

レコード民謡の誕生

昔からお稽古ごと好きな土地柄であったことが、尾張・名古屋の盆踊りが独特の発展を遂げた理由の一端にもなっているようです。さらに、盆踊りといえば、日本各地でその土地ごとに古来歌い継がれている民謡に乗せて踊るイメージがありますが、そこにもまた他とは違う名古屋ならではの特色があるとのこと。

「例えば郡上踊りの『春駒』や北海道の『北海盆唄』のように、地方ごとに歌詞もメロディーもよく知られた伝統民謡というものがあります。しかし名古屋にはほとんどない。民謡はあるにはありますが地味なものばかりで、盆踊りに合うような、これというものがないんです。阿波踊りみたいな全国的に知られるような有名なお祭りもないですよね。」スクリーンショット 2021-08-03 10.39.43.png

その理由について可知先生は、

「名古屋城築城によって発展した尾張藩は、もともと裕福だったからではないかと思うんです。恵まれていたので人々のストレスも溜まりにくかったのでしょう。ガス抜きの必要がなかったのかもしれませんね。名古屋には地域を代表するような民謡が少ないこと、お祭りらしいお祭りがないことには、そういう背景も少なからず影響しているのではないかと思うんです。」

豊かで恵まれた土地柄で、庶民でもお稽古ごとを嗜む余裕があったという名古屋。さらに昭和の初め頃からは、レコード民謡という文化が盛んになっていきました。スクリーンショット 2021-08-03 10.40.13.png汗をかいても気軽に洗えるという練習用の和服姿でお稽古に励む師範のみなさん。

その代表的な曲が『名古屋ばやし』です。昭和のはじめに作られた、名古屋で最初のレコード民謡で、名古屋の盆踊り曲の元祖とも言われています。

戦争で都市の大半が焼け野原となった日本。終戦後には明るい社会を作りたいという人々の願いが原動力となり、民踊は全国に広まったと言われています。

そんな時代の空気の中で、名古屋で人気を博した『名古屋ばやし』は、方言が盛り込まれた親しみのある歌詞と明るいメロディーで、一気に地元の人々の心を掴みました。令和の時代を迎えた今もなお、不動の定番曲として愛されています。スクリーンショット 2021-08-03 10.40.51.png

名古屋の盆踊りの礎となった「日本民踊研究会」

「戦前から学校の先生をしていた祖父が、児童舞踊の家元に師事し、子供達のための踊りを習っていまして、それが民踊の世界に入るきっかけになったんです。やがて戦争が終わり、祖父と数名のメンバーだけでゆるやかに民踊の活動を始めたのですが、そのうちお弟子さんが増えてまいりまして、昭和30年に『日本民踊研究会』を発足しました。」

昭和32年には師範制度ができ、以来60年余りにわたり「日本民踊研究会」は尾張・名古屋における民踊の発展に寄与してきました。スクリーンショット 2021-08-03 10.41.23.png毎年春に開かれる講習会には1万人を超える愛好家が参加するという。

昭和43年には、公募による歌詞に初代会長・可知豊年氏が振付けを担当した『大名古屋音頭』が誕生。『名古屋ばやし』と並んで長く市民に親しまれる、名古屋の盆踊りのスタンダードです。

「毎年、専属のレコード会社から新曲が発表されるので、それに私が振付けをして、今でも新作の盆踊りが増え続けています。それとは別にレコード屋さんなどから、最近はこんなのが流行っとるよ、と言っておすすめされる現代風の曲に振りを付けてみたりもしますよ。」スクリーンショット 2021-08-03 10.41.51.pngポップスやヒップホップ調の踊りも人気。軽快な曲に乗せて足取りも軽やかに。

流行りの曲に盆踊りの振付け...もしや、盆踊り界に新風を吹き込んだ、あの『ダンシング・ヒーロー』も可知先生が考えたもの?

「ああ、あれですか?あれは私が会長になる前、当時、二代目会長であった私の母が考えたんですよ。母はあの曲のことは知らなかったと思います。たまたま、いまこれが流行っとるよと、レコード屋さんか誰かに教えてもらって、ああ、ほうかね(注:名古屋弁で「そうですか」の意)ぐらいのノリで振りを考えてみたらしいです。」

流行のポップスだけにとどまらず、ヒップホップの人気曲『ガッツ‼』など、ほかのまちでは味わえない名古屋ならではの盆踊りスタイルは大注目となり、年々ヒートアップ!

さらに今年はサッカーJ1名古屋グランパスからの依頼を受けて誕生した新曲、『シャチほこれ!グランパス音頭』もお披露目される予定。軽快な曲調と楽しい踊りで、これもまた大いに盛り上がりそうです。スクリーンショット 2021-08-03 10.51.09.png昔ながらの伝統的な振付けに、新しい動きを織り交ぜて。

シンプルで簡単!これこそ盆踊りの醍醐味

しきたりや伝統に囚われず、なんでもありなところが名古屋の盆踊りの大きな特長なんですね。

あらためて、可知先生が思う盆踊りの一番の魅力とは?

「簡単でシンプル。誰でもすぐに踊れるところですね。あとは繰り返しの面白さ。パターンさえ覚えればすぐ輪に加わって楽しめるでしょ?振付けを考える際にも、なるべく簡単で、繰り返して面白いと感じる動きを大事にしています。1サイクルが長すぎても短すぎても良くない。ポイントを一か所入れて、あとはシンプルに。同じ動きを繰り返すことでランナーズ・ハイにも似た高揚感や快感が味わえるんですよ。」

そのパワーをもっとも近くで感じてきたのが、師範の山本豊智さん。名古屋城夏まつりの会場では10年以上も前から毎年、櫓の上でマイクを握り、会場を盛り上げている音頭取りのベテランです。スクリーンショット 2021-08-03 10.42.26.png音頭取りさんは、櫓の上で会場の盛り上がり具合を見ながら臨機応変に選曲。 2019年夏まつりの写真です。

「一応、曲順は決めておきますが、ちょっと踊り手さんが少なくなってきたなと思えば、みなさんのよく知っている『炭坑節』をかけて櫓の周りに人を集めようとか、終わりに近づいて、さよならの前にもう一度みんなで盛り上がりたいなと思ったら、『ガッツ‼』のようなアップテンポの曲を繰り返しかけようとか。その場の雰囲気を見ながら次にかける曲を考えていますね。」

フロアの盛り上がり具合と踊り手たちのノリに合わせてその場で選曲。音頭取りさんって、まるでDJみたい!輪の中心でみんなのパワーを一身に感じられるのも最高に気持ちよさそうです。

「いえいえ、とてもそんな余裕はありません。でも...そうですね、みなさんと感じる一体感?というのでしょうかね。それはやはり気持ちいいですよね。ウフフ...」と恥じらう豊智先生ですが、2年ぶりの名古屋城盆踊り大会を前に、すでに気合い充分!スクリーンショット 2021-08-03 10.43.12.pngこの夏、2年ぶりに櫓の上で勇姿を披露する豊智さん(右)

名古屋の盆踊りが全国から注目される理由

「なんと言っても、お城の中で天守をバックにあれだけの規模で踊るというのが一番の特長でしょうね。名古屋城の盆踊りを見たいと言って県外からわざわざやってくる人も多いですしね。」スクリーンショット 2021-08-03 10.43.46.pngほかとはひと味もふた味も違う名古屋ならではの盆踊りに熱い視線が集まる!2019年夏まつりの写真です。

先生のお話を聞いているうちに、早く踊りたくてウズウズしてきました!

誰もがすぐに輪に加わって楽しめるのが盆踊りの最大の魅力。とはいえ、やはり師範の先生方のような美しい所作にも憧れます。最後にこっそり、上手に踊る秘訣を可知先生にうかがうと...。スクリーンショット 2021-08-03 10.44.42.png「上手に踊ろうなんて思わず、好きなように楽しんで」と可知先生。

「秘訣やコツなんぞ覚えて踊ったら、つまらないことになりますよ。我々はお手本ですからきちんと踊ってますけども、それでは面白味がないんです。盆踊りというのは昔から無礼講。お盆に帰ってきたご先祖様と一緒に、下手でもなんでも自由に楽しむ。それでいいんですよ。」

なんだかするりとはぐらかされてしまいました(笑)。

老いも若きも、上手いも下手もお構いなし。真夏の夜に大衆の心を沸き立たせ、熱く盛り上がる日本のソウル・ダンス、盆踊り!

ライトアップされた名古屋城を見上げながら、全国からも熱い視線が注がれる名古屋の盆踊りを、さあ、今年もみんなで満喫しましょう!

Text:Ayuko Tani Photo:Takayuki Imai
Release:2021.8

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「名古屋城夏まつり」
名古屋の夏を熱く彩る恒例の人気イベント「名古屋城夏まつり」。西の丸エリアでは、夜空をバックにライトアップされた名古屋城を仰いでの盆踊り大会が開催されるほか、夏まつりの定番、射的や輪投げ、金魚すくいなどが並ぶ「えんにちブース」、冷たーいかき氷や名古屋めしが味わえる期間限定の「鯱食堂」なども登場。2年ぶりの開催となる今年は、8月7日(土)〜15日(日)までの9日間にわたり、開園時間を延長して行われます。真夏の夜をみんなで踊り尽くしましょう!