お城note

尾張藩は、尾張一国にあらず?

2022年11月19日(土)20日(日)、名古屋城二之丸広場にて「尾張藩連携フェア」が開催されました。
秋晴れの空の下、集結したのは尾張藩連携事業に参画する、愛知県、岐阜県、長野県の市町村です。
尾張藩連携事業とは、かつての尾張藩にゆかりのある地域や組織が協力して名古屋を起点とする「尾張藩周遊ルート」を新しく形成し、魅力的な観光資源としてPRしていこうという取り組みのこと。
尾張藩の威勢を今日の賑わいにつなげるパワフルなプロジェクトとして、期待を集めています。
それでは、フェア当日の様子とともに、参加地と尾張藩との関係についてレポートしていきましょう。

イベントは、名古屋おもてなし武将隊の徳川家康と服部半蔵忍者隊による華麗な演舞で幕を開けました。河村たかし名古屋市長も駆けつけ、各市町村の首長らとともに登壇。約400年にわたる"地勢的なつながり"を通じて当エリアの魅力を発信し、観光を盛り上げていこうと呼びかけました。

スクリーンショット 2023-01-16 11.23.58.jpgこの後、名古屋おもてなし武将隊の徳川家康による合図で一斉に、「えい、えい、おー! 」と勝ちどきをあげました。

ステージでは、各地のさまざまな伝統芸能も披露されました。特に喝采を浴びたのが、岐阜自慢ジカブキプロジェクト(東濃歌舞伎中津川保存会)による、この日のために書き下ろしたオリジナル地歌舞伎。派手な隈取を施した役者が鮮やかな台詞回しで各地の魅力を語り上げ、大見得を切ると、「日本一!」の掛け声とともにおひねりが乱れ飛びました。

スクリーンショット 2023-01-16 11.24.17.jpg岐阜のお国自慢を台詞に盛り込んだ地歌舞伎で大盛り上がり。

それでは、各ブースを訪ねて尾張藩とのご縁をインタビュー! フェアの目玉の一つ、各ブースに並んだ自慢の物産品や郷土食の数々も一緒にご紹介していきますよ。

犬山市(愛知県)

まずは名古屋にとっては比較的ご近所さん、犬山市のブースへ。「犬山城といえば、犬山藩でしょう? 」という声が聞こえてきそうです。実は、公式に犬山藩になったのは、明治に入る少し前なのだそう。犬山市役所の粟野さんにお聞きしました。

スクリーンショット 2023-01-16 11.24.58.jpg「望楼型天守の美しい犬山城は、市の宝です」と、いろんな魅力を紹介してくれた粟野さん。

「犬山城は、築城後たびたび城主が変わりましたが、江戸時代に尾張徳川家の付家老が犬山城を拝領して、尾張の支藩となりました。望楼型天守は、昭和10年に国宝指定(昭和27年再指定)され、国宝天守5城の一つです。国宝1号の名古屋城(焼失前。現在は特別史跡)とは国宝仲間ですね」。

そして、犬山といえば、歴史ある木曽川鵜飼もあります。毎年、61日から1015日まで、木曽の森林から尾張藩へ木材が運ばれるルートだった歴史を持つ木曽川で開催。犬山城を眺めながら鵜匠と鵜の見事な連携プレーを楽しみたいですね!

さて、ここからは岐阜エリアの連携先です。

郡上市(岐阜県)

郡上市のシンボル、郡上八幡城は、関ヶ原の戦いの前哨戦「八幡城の戦い」の舞台として知られています。徳川家康側である東軍に属して、八幡城城主の遠藤慶隆が活躍しました。

郡上市役所の地口さんによると、「当時、郡上は郡上藩で尾張藩ではありませんでしたが、現在、名古屋市と郡上市はお互いに観光に力を入れる市として交流があったことから、お声をかけていただいて尾張藩連携事業に参加させていただくことになりました」とのこと。郡上は、尾張藩の新しいお仲間というわけですね。

スクリーンショット 2023-01-16 11.25.22.jpg明宝特産物加工、めいほう鶏ちゃん研究会、明宝ジビエ工房などのグルメをPRする郡上市役所の地口さん。

さて、そんな郡上市のブースでは、ご存じ明宝ハムを使った軽食や焼きたてのめいほう鶏ちゃん、猟師が捕ってさばいた鹿肉のグリルなどのグルメがいっぱい! おいしそうな匂いに誘われた人びとが、その場で舌鼓を打っていました。

下呂市(岐阜県)

「下呂市は飛騨国にあたるエリアですが、最南端の金山町の一部が尾張藩でした。また、下呂にある岩屋ダムは、名古屋市の水源の一つというご縁もあります」と、現代に至る関係性を教えてくれたのは、下呂市役所の渡邉さんです。

スクリーンショット 2023-01-16 11.25.39.jpg風呂桶にすっぽり収まっているのは、下呂温泉ファンクラブのイメージ・キャラクター、げろぐるくん。

下呂市といえば、なんといっても下呂温泉ですよね。「アルカリ性単純温泉で日本三名泉の一つ。泉質は、どこにも負けないと思いますよ。入るとお肌がツルツルになるんです」と、渡邉さんも胸をはります。戦国時代の武将も湯治に訪れたと伝わっているそう。

「下呂温泉では、202212月から20233月にかけて、ほぼ毎週土曜日に音楽に合わせて上る冬花火の催しがあります。ぜひ泊りでお越しください」。

中津川市(岐阜県)

中津川市ブースを紹介してくださったのは、加子母森林組合の安江さんです。

「実は、うちの"大事の木"も、名古屋城天守閣の木造復元のために数年前に切り出された56本うちの1本なんですよ」。

えっ、大事の木? 実は、"大事の木"とは、すべての世帯が山を所有している加子母で、「お家に大事があったら、この木を使うように」と、先祖代々、大事に守ってきた樹齢数百年以上の大径木のこと。それを「名古屋城のためなら」と、各家から提供したそうなんです。

スクリーンショット 2023-01-16 11.25.57.jpg「うちの"大事の木"が名古屋城天守閣のどこに使われるのか、ワクワクします」と話す安江さん。

そもそも、「裏木曽三ヶ村」に属する旧加子母村、現中津川市の加子母エリアの山林は、尾張藩が「山守」を置いて守ってきた歴史があり、今も樹齢300年以上の樹木が並び立っています。

(中津川市の山守についての回はコチラ

本丸御殿復元の際も、加子母の木曽ヒノキ備林の樹木が使われ、それを機に2008年からは、「名古屋市民の森づくり」が名古屋城の一事業として行われています。

(「名古屋市民の森づくり」に至るエピソードはコチラ

さて、そんな中津川市ブースのおすすめ品は、加子母のヒノキを造材にする際にはらった枝葉から抽出した希少なエッセンシャルオイルと、合板を作るために丸太をかつら剥きにして残った芯を使ったアロマスタンドのセットです。

スクリーンショット 2023-01-16 11.26.12.jpgカットされて廃棄される枝葉を利用したアップサイクル製品でもある「WANOWAオイル&ウッド」1,560円。

さあ、ここからは長野県に入ります。尾張藩との意外な関係、気になりますよね。

南木曽町(長野県木曽郡)

南木曽町といえば、中山道42番目の宿場町、妻籠宿が有名です。江戸時代の途中に幕府領から尾張藩領になった木曽11宿の一つでもあります。全国初となる、宿場町の保存活動が実を結び、江戸時代を思わせる家々が軒を連ねる名所として愛されています。

スクリーンショット 2023-01-16 11.26.33.jpg南木曽町のブースでこの地方の伝統的な防寒着「なぎそねこ」を着てみせてくれたのは、南木曽町役場の吉村さんです。

手作業でつくられるオーダー製の「なぎそねこ」は、南木曾町の商標登録。4,200円~。

「南木曽町では、一家に一枚は必ずあると言えるくらいポピュラーなんですよ。袖と前がない"はんてん"のような上着で、着ぶくれしないので、私はスーツの下に着ています」。南木曽町のお母さんたち手作りのあったかさが自慢です。

大桑村(長野県木曽郡)

大桑村と尾張藩とのつながりも、宿場町にあります。

大桑村役場の下島さんによると、「大桑には中山道の宿場町として古い歴史を持つ須原宿と野尻宿があり、江戸時代に入ってから尾張藩領になりました。中山道は、徳川家康が江戸を起点に交通インフラの整備に乗り出した五街道の一つとして重視されていたんですよ」とのこと。

スクリーンショット 2023-01-16 11.26.47.jpg「味噌汁やスープに。えのき茸はそのままサラダに入れてもおいしいですよ! 」と、下島さん。

そんな下島さんのおすすめは、「乾燥しいたけ」。長野県産の各種きのこの乾物が村の名物なんです。きのこは乾燥させると旨みが凝縮して、よりおいしくなるんですよね。ちなみに、今回のブースに登場こそしませんでしたが、マス(川魚)もおいしい地域です。

スクリーンショット 2023-01-16 11.27.02.jpgほかにも、なめこ、きくらげ、えのき茸など。それぞれたっぷり入って各1,000円。

上松町(長野県木曽郡)

上松町は、樹齢300年を越えるヒノキが林立する赤沢自然休養林の入口でもあり、尾張藩とは木材を介したつながりが深い地域です。

上松町役場の見浦さんによると、「江戸時代には、尾張藩直轄の材木役所がありました。材木奉行が常駐して木曽山林の管理をしていたんです。ここ名古屋城本丸御殿復元の折にも材料を提供しており、三ツ緒伐り(みつおぎり)という伝統的な手法で木曽ヒノキを伐採しました」とのこと。

上松には木曽路のほぼ中央に位置する上松宿もあり、尾張藩領でした。

スクリーンショット 2023-01-16 11.27.18.jpg木曽ヒノキグッズのやさしい手ざわりやその効能について詳しい見浦さん。

そんな上松町の自慢は、木曽ヒノキを使った木工品たち。なかでも人気は、料理サーバーです。触れるだけでリラックス効果があり、殺菌効果も期待できるヒノキのキッチングッズは、道の駅でも人気なのだとか。

スクリーンショット 2023-01-16 11.27.37.jpg上松町木材工業協同組合の「木曽ひのき料理サーバー」500円。

木曽町(長野県木曽郡)

江戸時代の途中から尾張藩管轄となった木曽の11宿のなかでも大きな宿場町として賑わった福島宿がある木曽町。江戸時代末期の建物がところどころに残っていて、風情たっぷりです。

「四大関所の一つである福島関所も見どころの一つですよ。そう、あの"入鉄砲・出女"を取り締まったところです。管理していたのは、尾張藩の代官でした」と教えてくれたのは、木曽町役場の石田さん。

スクリーンショット 2023-01-16 11.28.00.jpg「実は今日、木曽おもちゃ美術館がオープンしました。ぜひ遊びにきてください」と、石田さん。

石田さんがおすすめする木曽町のおいしいものは、「かいだそば」。昔から地域で食されている、開田高原で栽培される「開田早生」という在来種で作られた半生タイプのそばで、1カ月ほど日持ちするから家庭で気軽に食べられているのだとか。昔からずっと愛されている味です。

スクリーンショット 2023-01-16 11.28.15.jpg昔ながらの漬物など、おいしいものが並んだ木曽町のブースでイチオシの「かいだそば」400円。

木祖村(長野県木曽郡)

木祖村に広がる水木沢天然林は、尾張藩へ良質な材木を提供する森林でした。

「江戸時代には全国の城や城下町を作るために大量伐採されて、一時ははげ山になったほどでした。その後、放置された森が育って天然林となり、現在では樹齢300年以上の針葉樹と広葉樹が混交する貴重な森林資源になっています」と、教えてくれたのは、木祖村観光協会の井出さんです。

スクリーンショット 2023-01-16 11.28.30.jpgお六櫛職人の技術や櫛にまつわる伝説を丁寧に語ってくれた井出さん。

ブースには、見事な「お六櫛」が並んでいました。1mm大きくなるのに5年かかると言われるほど目の詰まった樹木ミネバリ(オノオレカンバ)から手作りされています。

名前の由来は、頭痛に悩まされていた娘、お六さんが神様のお告げでミネバリの木で作った櫛で髪を梳いたら治ったという伝説から。「職人さんの手挽きで、熟練者はこの幅に150本もの歯を挽くんですよ」と、誇らしげに紹介してくれました。

スクリーンショット 2023-01-16 11.28.47.jpg両サイドから削るため、歯の付け根に3ミリほどの影があるのが手挽きの証。お六櫛 3,900円(3.2細歯)

塩尻市(長野県)

「塩尻市には、『是より南 木曽路』の碑があり、木曽ヒノキの管理のために山林を領藩としていた尾張藩との関わりの証となっているんですよ」と、尾張藩との関係を教えてくれたのは塩尻市役所の金子さんです。

スクリーンショット 2023-01-16 11.29.10.jpg金子さんと2022年日本ワインコンクール金賞受賞の「2021マスカット・ベリーA」 1,690円

碑があるのは、平成の大合併で塩尻市に併合された旧楢川村エリア。同じく旧村内にある贄川宿は、尾張所領となった木曽11宿のうち最北にあり、贄川関所が松本藩との境目でした。また、塩尻市といえば、「奈良井千軒」ともうたわれた大きな宿場町、奈良井宿でも有名です。こちらも尾張藩の所轄です。

そんな塩尻市おすすめの一品は、「信州桔梗ヶ原 井筒ワイン」。塩尻市に15社あるワイナリーのなかで一番歴史の長いワイナリーによるこだわりのワイン。フルーティーで個性的な赤です。

以上、10のブースをご紹介しました。

今回の尾張藩連携フェアは、当事業活動のごく一部。これからも、尾張藩という400年の縁でつながるエリアの魅力をアピールしていく予定とのこと。楽しみですね。

Text:Chikako Asai Photo:Yasuko Okamura

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尾張藩連携フェアには、名古屋城PRイベント実行委員会もブースを設けて参加しました。お土産コーナーでは、連携先の一つである中津川市とのコラボレーションから生まれた木曽ヒノキ製「名古屋城SDGsオリジナルピンバッジ」などの名古屋城公式おみやげを販売。木曽ヒノキの温泉ボールセット「金シャチの湯」を使ったシャチつりゲームなど楽しい遊びもご用意しました。また、金シャチ募金箱を設け、寄附をしてくださった方には、シールゲームとシャチくじで遊べるチケットをお渡しして、名古屋城天守閣木造復元をPRしました。