名古屋城から納屋橋までを船でゆく「なごや堀川クルーズ」が、期間限定で運航されています。クルーズならではの景色を味わいながら、名古屋の歴史に触れる。近年、春と秋の恒例となっているアクティビティーを体験してきました。
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名古屋城と堀川は切っても切れない間柄
はじめに、堀川と名古屋城の成り立ちについて少しご紹介しておきましょう。そもそも堀川は名古屋城の築城に合わせて1610年に掘られた人工の運河です。江戸時代、新たにお城とまちをつくるには、材木や食料などたくさんの物資が必要でした。それらを城下に運び込む水運の要となったのが、熱田と名古屋城を結ぶ堀川です。
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例えば、「木曽」「裏木曽」と呼ばれる今の岐阜県と長野県の山々からは、良質な木が木曽川の流れを使って熱田へ辿り着き、堀川を上って届けられました。当時、堀川沿いには材木屋が軒を連ねていたといいます。
堀川の掘削を指揮したのは戦国武将の福島正則。わずか1年半程度で工事を完了しました。納屋橋周辺には福島の像があり、その功績が今も讃えられています。こうした堀川と名古屋城との結びつきにも、ぜひ目を向けてみてください。
なごや堀川クルーズ
さて、なごや堀川クルーズの乗船場は「名古屋城前(朝日橋)」「五条橋」「納屋橋」の3つ。名古屋城前(朝日橋)と納屋橋間を運航する航路と、名古屋城前(朝日橋)と五条橋間を運航する航路を選べます。
「名古屋城前(朝日橋)」の乗船場は、名古屋城正門から西へ徒歩5分程度の朝日橋のたもとにあります。
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名古屋城前(朝日橋)乗船場:名古屋城正門から徒歩5分
「五条橋」乗船場は、趣ある町並みが残る円頓寺商店街や四間道の付近。「納屋橋」乗船場は、伏見や栄といった都心へ出るのに便利な場所です。
クルーズは、名古屋城前(朝日橋)と納屋橋間の片道が15分程度。名古屋城前(朝日橋)からは、納屋橋行きと五条橋行きが、それぞれ毎時1本ペースで出航しています(運航スケジュールは日によって異なります。あらかじめなごや堀川クルーズWebサイトにてご確認ください)。
個性豊かなガイドさんの案内で堀川を深く知る
今回は、なごや堀川クルーズ初体験の大学生ふたりと一緒に、名古屋城前(朝日橋)から納屋橋までの船に乗りました。お昼頃、25人乗りのクルーズ船は満席です。
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クルーズには必ずガイドさんが同乗し、堀川の歴史や周りの景色について解説してもらえます。この日のガイドは、大学院生の新美貴子(にいみきこ)さん。建築学科で水辺の空間について研究する中で、堀川にも関心を持ってガイドを始めました。解説の内容は、ガイドさんによってアレンジされているそうです。新美さんは、専門分野の建築のネタを盛り込んでいます。
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堀川が名古屋城とともにできたこと。川沿いには昔ながらの景色が残り、四間(約7m)の道幅から「四間道」と呼ばれていること。江戸時代から残る石垣は、家ごとにつくったため積み方も石の種類もバラバラということ。一方、改修中の新たな護岸は名古屋城の石垣をイメージしていること。家から川へ下りる階段の跡が今も残っていること。護岸工事用の桟橋をくぐる経験は今しかできないということ。みなさん、あちこちへ向けながら、さまざまな話題に「へ〜」と感心する声が上がります。
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家ごとにさまざまな積み方をされた石垣
名古屋城の石垣をイメージした新しい護岸
民家の間に、堀川へと降りる通路が今も残ります
とりわけ、堀川にかかる橋を下から眺める経験は、なかなかできない貴重なものです。![]()
地上からは見られない眺めも
堀川にかかる「はし」
堀川には、江戸時代からかかり続ける「堀川七橋」と呼ばれる橋があります。このうちクルーズで通過するのは、五条橋、中橋、伝馬橋、納屋橋の4つ。
五条橋と伝馬橋
五条橋は、名古屋城築城に伴う清洲からの都市の移転、いわゆる「清洲越し」で移築された橋です。橋の装飾の擬宝珠(ぎぼし)には、堀川開削より前の「慶長七年」の文字が刻まれています。
現在、橋にはレプリカが設置され、実物は名古屋城にて保存。
納屋橋の欄干(らんかん)には、織田、豊臣、徳川の三英傑の家紋と、掘削工事を担った福島正則の「中抜き十字」の家紋が刻まれています。
納屋橋に刻まれた福島家の家紋「中抜き十字」
さらに、「堀川七橋」以外の橋にも見所が。橋の長さよりも幅が広い「桜橋」。ガイドの新美さんは、「桜の装飾が施されているだけでなく、機能的にも優れている好きな橋です」とおすすめしてくれました。川底の下を地下鉄・東山線が走っている錦橋は、車、川、電車の三段構造を可能にした工法に特徴があるそうです。
桜橋に施された桜の装飾
ちなみに、新美さんは橋の名前を「〇〇はし」と紹介しています。「〇〇ばし」と濁点を付けないのは、堀川が濁りのないきれいな川であるようにと願いを込めてとのことです。
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思い出も発見もいっぱい
船の上からしか見られないものがあれば、船を降りた後に見に行ってみたくなるものもある。名古屋のまちをめぐる際の楽しみが増えるのではないでしょうか。
名古屋城前(朝日橋)から納屋橋までのクルーズを終えた大学生のふたりは、「とても楽しかった!」「川沿いの石垣の話が面白かった」「"はし"と濁点を付けない理由が印象的だった」と話してくれました。最後に、納屋橋で福島正則と一枚。
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この秋のクルーズの注目企画
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なごや堀川クルーズは、堀川を名古屋の魅力向上のために活用しようと2018年にスタートしました。当初は、秋に数日だけ開催されており、2022年から現在の春と秋に期間限定で運航するかたちになっています。
爽やかな青色の法被で迎えてくれるスタッフのみなさん
この事業を担当する名古屋市住宅都市局まちづくり企画部名港開発振興課の伊藤亜由美さん、渡辺翔也さん、加藤真也さんは、クルーズの魅力や展望についてこのように語ります。
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「都心で船に乗れる体験をシンプルに楽しんでいただけています。名古屋城と円頓寺や納屋橋界隈を結ぶ移動手段としても優秀です」
「現在は、名古屋市民や愛知県民の方を中心に利用いただいていますが、認知度を上げ、地域的にも世代的にも広げていきたい」
「名古屋城と堀川がともにできたという歴史も知りつつ、円頓寺商店街や四間道など堀川周辺の魅力も満喫してもらえたらうれしいです。世代を問わず面白がっていただけるはず」
通常便だけでなく、さまざまな企画便も運航しています。名古屋おもてなし武将隊が乗船し案内してくれる「おもてなし武将隊船内ガイドクルーズ」。円頓寺商店街で人気の「ナゴヤ座」が特別な講談を披露する「ナゴヤ座コラボ船内講談クルーズ」。ライトアップされたまち並みなど夜の堀川を満喫する「堀川ナイトクルーズ」。ご予約はぜひお早めに。(企画便の詳細はなごや堀川クルーズWebサイトをご確認ください。)![]()
加えて、この秋のクルーズでは、乗船した全員に謎解きキットがプレゼントされます。5つの謎解きのコースが用意され、乗船中や周辺のまち歩き中にチャレンジできる企画です。![]()
名古屋城前(朝日橋)と五条橋を行き来するのは、島根県から譲り受けた「松江船」です。![]()
この船には屋根がついていて、条件が良ければ乗船中に屋根が折りたたまれるちょっとしたアトラクションも体験できます。
松江船の屋根を開けた状態と閉じた状態
名古屋城との連携ももちろんあります。なごや堀川クルーズの乗船券の提示で、名古屋城の観覧料が大人ひとり500円から400円に。この他、「名古屋城ガイド・御城印付き」の便では、納屋橋から名古屋城前(朝日橋)まで乗船し、名古屋城のガイドとなごや堀川クルーズ限定の御城印がついてきます(開催日時はなごや堀川クルーズWebサイトにてご確認ください)。![]()
楽しみ方も盛りだくさんのなごや堀川クルーズ。まちなかでの気軽な船旅にあなたも出かけてみませんか。非日常体験から名古屋城や名古屋のまちの新しい魅力を発見できると思います。
Text & Photo:Yuta Kobayashi
「堀川万博」
2025年10月から11月にかけては、さまざまな視点で堀川の魅力を掘り下げる「堀川万博」も開催されます。主催は「水辺とまちの入口研究所」です。堀川流域のあちこちでイベントが予定されています。歴史、暗渠、生き物、植物など、多彩なテーマで堀川周辺を散策するまちあるき。堀川を知り尽くした13人の「堀川アンバサダー」が集うトークイベント。まちなかで名古屋の歴史と文化に触れる「やっとかめ文化祭」とのコラボ企画や、「なごや環境大学」による特別講座も。さらに一歩踏み込んで、堀川の面白さを探ってみませんか。