とても広い名古屋城。
皆さんは隅々まで歩いて回ったことがありますか? 名古屋城のことをどれくらいご存知でしょうか。そんな名古屋城の、まだ知られていない魅力に触れられる特別なゲームとして、昨年の秋から「名古屋城妖怪リサーチ」が登場し、多くの方に楽しんでいただけるようになりました。
「名古屋城妖怪リサーチ」とは
名古屋城を隅々まで歩きながら、その魅力や歴史に楽しく触れられるゲームブックです。ブックに載っている「名古屋城マップ」を片手に、お城の中に隠された10ヶ所のプレートを探し出すと、そこには名古屋城を守る妖怪たちの姿が。見つけた妖怪のシールをブックに貼っていくと、少しずつ4コマ漫画が完成し、名古屋城にまつわる物語を楽しむことができます。
いつもなら見落としがちな場所までゲームブックに導かれて向かいます
答えのポイントにたどり着かないと、どのシールを貼ればいいのか分からないのも、こだわりのひとつなのだとか
昨年の秋にスタートした「名古屋城妖怪リサーチ」は、今年度から英語版も登場し、海外から訪れる方々にも楽しんでいただけるようになりました。
「名古屋城妖怪リサーチ」制作秘話
今回は、「妖怪リサーチ」の制作に携わった方の中から、名古屋城の担当者・西浦さん、堀さん、ゲームクリエイターの山中さん、デザイナーの青木さんにお話を伺いました。
<名古屋城で、ゲームブックが生まれた背景とは>
西浦さん
本丸御殿や天守閣、金鯱などについては、名古屋城を訪れる方の多くがしっかりと見学したり写真を撮ったりしてくださっています。もちろん、それだけでも名古屋城の魅力は味わっていただけるのですが、名古屋城はとても広大なお城で、実は、城内にはほかにも魅力的なスポットが数多く存在します。
私自身、日々城内で過ごすなかで、「こんな場所があったのか」と驚かされたこともしばしば。ですが、来場者の方は気づかないまま帰ってしまわれることが多いように感じて、なんだかもったいない気持ちでいました。だからこそ、答えを探していく過程で、普段なら立ち寄らない場所に自然と足を運ぶきっかけを作ってくれるゲームは、名古屋城の隠れた魅力に触れていただくためにぴったりの方法だと感じました。
青木さん(デザイナー)
名古屋城さんの想いと共に「城内を周遊できるゲームをやってほしい」というテーマをいただきました。どう進めるか考えていた際、山中さんと出会ったのです。山中さんは既に、アナログゲームブックの作成などをされていて、私たちのやりたいことを形にされている方だと感じ、一緒に作成できたらと思い、声を掛けさせていただきました。
山中さん
青木さんからお話をいただき、チームに参加することになりました。作成にあたり、何度か城内を歩き、学芸員の方から丁寧に歴史を教えていただく中で、城内の雰囲気を実際に感じ、イメージを膨らませていくことができました。他の地域で行われている謎解きイベントにも参加しましたが、開催場所とゲームの内容が切り離されているものも少なくありません。その点、私たちは開催場所と内容を切り離さないで"遊んでいるうちに気づけば名古屋城の歴史にふれられること"を大切にしました。
子どもたちにも楽しんでもらえるようにキャラクターを取り入れ、シールを集めて4コマ漫画を完成させる仕掛けを加えています。その中で自然と名古屋城の歴史を感じながら楽しんでもらえていたら嬉しいです。
ゲームブックが「妖怪リサーチ」になった瞬間
山中さん
登場するキャラクターについて、最初は、名古屋城に潜む精霊や妖精のような存在をイメージしていました。でも「精霊」や「妖精」と聞くと、どうしても西洋っぽい雰囲気になってしまうなと考えたときに辿り着いたのが「妖怪」でした。登場する妖怪たちは、ただ登場するキャラクターではなく、名古屋城の歴史とつながっているのがポイントです。たとえば「石投げ天狗」。昔の日本では、山の中で突然小石や砂が降ってくる現象を天狗の仕業と考えて「天狗礫(てんぐつぶて)」と呼んでいました。この話から着想を得ています。名古屋城の西北隅櫓は、もともと敵に石を投げて防御するための場所だったこともあり、その歴史と結びつけ、「櫓に天狗が住んでいて、石を投げて城を守っている」というストーリーを作成しました。
インタビュー後、山中さんに西北隅櫓に案内していただきました
青木さん
山中さんが考えてくださった妖怪キャラクターは、イラストレーターの間柴さんにビジュアル制作をお願いしました。怖すぎず、でもゆるすぎない。そこに間柴さんらしいテイストも加わって、キャラクターとしても個性のある、子どもから大人まで親しんでもらえる妖怪になったと思います。
実際に城内を歩かないと、どこにシールを貼ればいいのか分からないようにしているのもこだわったポイントです。自分の足で歩いてシールを集めて貼っていくことで4コマ漫画が完成し、「自分だけの一冊」が出来上がる。そんな記憶と一緒に残っていくような、特別な一冊になれば嬉しいです。見ているだけでキュンとくるキャラクターたち
山中さん
これまではゲームブックを作るときも、一人で制作することが多かったのですが、今回は青木さんや間柴さん、学芸員さんなど、いろんな方の力をお借りしながら作ることができました。ラフで描いたものがどんどん形になっていく様子を見て、わくわくしたのはもちろん、怖い妖怪が間柴さんの手で可愛くて愛嬌のあるキャラクターに仕上がったときには、本当に感動しました。
歴史的な内容ってどうしても堅苦しくなりがちなのですが、学芸員さんにも助けてもらいながら、読みやすく楽しい形にできたのは、このチームだからこそだなと感じています。
妖怪リサーチのこれから
西浦さん
秋から「名古屋城妖怪リサーチ」に英語版が登場したことで、海外から訪れる方にも楽しんでもらえるようになりました。普通に読んでいても楽しいですし、学芸員さんにも監修いただいているので名古屋城のガイドブックとしても役立ちます。おみやげとしても手に取っていただけたら嬉しいですね。
青木さん
この本を持って名古屋城を巡ってほしいという気持ちももちろんありますが、気軽に買って、家で開封して、また名古屋城に行きたくなる──そんな身近な存在になれば嬉しいですね。
堀さん
妖怪リサーチで誕生したキャラクターたちを使ったグッズもぜひ展開していきたいと考えています。ぬいぐるみやキーホルダーなど、自分でも欲しいと思えるグッズを作って、妖怪たちに世界へ羽ばたいてもらえたらと思います。
山中さん
私含め、多くの方のこだわりがギュッと詰まっている「妖怪リサーチ」に出てくる名古屋城を守るかわいい妖怪たち。みんなに可愛がってもらえたら嬉しいです。
制作チームのお気に入りキャラクター
山中さん
「かやのみ3兄弟」ですね。今回の妖怪リサーチで最初に考えたキャラクターなので、特に思い入れがあります。名古屋城で撮影したかやのみの写真をイラストレーターの間柴さんに送ったところ、顔のイラストが描かれて戻ってきた時のことを今でも鮮明に覚えています。3兄弟という設定から3つのキャラクターが生まれたのですが、それぞれにしっかり個性が感じられ、この子たちだけでアニメができそうなくらい魅力的です。「かやのみ3兄弟」が決まったことで、他のキャラクターも自然と形になっていったので、なおさら大切な存在ですね。
堀さん
絶対に「くらぼっこ」です。乃木倉庫をモチーフにしたキャラクターで、案をいただいた段階からずっと一番のお気に入りです。グッズ化するなら、絶対にこの子は外せないと思っています(笑)モチーフとなった乃木倉庫の障壁画まで丁寧に描き込まれていて、細部にまでこだわりが感じられるんです。乃木倉庫は御殿の障壁画を守った立役者。その役割がしっかりキャラクターに反映されていて、物語性を感じさせてくれるところが魅力ですね。
西浦さん
私の一番は「ひょうたん小僧」。顔がすごく好みです。名古屋城の特徴のひとつは石垣に刻印があることなのですが、「ひょうたん小僧」の「ひょうたん」もこの刻印の一つです。これは、多くの大名たちが力を合わせて石垣を運んだからこそ残っているもので、他のお城ではあまり見られません。その背景を、可愛くわかりやすく表現してくれているのが好きなポイントの一つです。
ちなみに「かやのみ3兄弟」も大好きで、とても迷いました!城内には推定樹齢600年を超える天然記念物のカヤの木があるのでぜひご覧になってください。なんと今でも毎年実をつけるんですよ!
青木さん
推しのキャラクターがみんなバラバラなのもすごいですね(笑)私は「清正石」です。見た目はどっしりと幅がありそうなのに、実はとても薄いというギャップがたまらなく好きです。さらに、この虚無な表情もツボなんです・・・。清正石の薄さも学芸員さんにもしっかり監修していただいていて再現しています。名古屋城の歴史とも深く結びついているところも魅力ですよね。
名古屋城妖怪リサーチに挑戦する方にも是非、推しキャラをつくってもらえたら嬉しいと制作チームの皆さん
名古屋城を歩きながら楽しく巡り、その魅力や歴史に触れられるゲームブック「名古屋城妖怪リサーチ」。すでに名古屋城に訪れたことがある方はもちろん、初めての方も、一人でも、友人や家族と一緒でも、これまで気づかなかった名古屋城の新たな一面に出会えるはずです。あなたもぜひ、「名古屋城妖怪リサーチ」に挑戦してみてくださいね。
「名古屋城妖怪リサーチ」に挑戦するため駆け出す子どもたち
名古屋城妖怪リサーチで楽しむ子どもたち
Text:Hiyori Sakakibara Photo:Junpei Takami

「名古屋城妖怪リサーチ」
名古屋城を隅々まで歩きながら、その魅力や歴史に触れることができるゲームブックです。
ブックに掲載されている「名古屋城マップ」を手に、お城の中に隠された10箇所のプレートを探し出すと、そこには名古屋城を守る妖怪たちの姿が描かれています。見つけた妖怪のシールをブックに貼っていくことで、徐々に4コマ漫画が完成し、名古屋城にまつわる物語を楽しむことができます。
名古屋城妖怪リサーチ 800円(税込)
今回紹介した「名古屋城妖怪リサーチ」は正門横売店、西の丸御蔵城宝館ミュージアムショップ「三番御蔵」にて800円で発売中です。皆さんもぜひ、挑戦してみてくださいね!