年間200万人以上が訪れ、国内屈指の城郭として国の特別史跡に指定されている名古屋城。
その姿を眺めて「さすが立派で、かっこいい!」と感じても、詳しい歴史を勉強するのは難しそうでハードルが高い。そんなふうに感じる方にうれしいリーフレットが名古屋城にあります。
表紙には、名古屋城がカラフルで可愛らしいタッチで描かれています。中面を開いてみると真ん中にイラストマップが大きく載っていて、建物や庭園の説明文には全ての漢字にふりがなが振ってあります。
パッと見ただけで「これなら楽しく学べるかも」という印象を受けます。
実はこれ、子ども向けのリーフレットです。タイトルは「いざ出陣!名古屋城子ども探検隊!」。小中学生のみなさんにもっと名古屋城の魅力を知ってもらい、誇りや愛着を持ってほしいという想いで作成されました。
2023年にこのリーフレットと、さまざまなテーマごとに学習シート「名古屋城 子ども博士になろう」を作成。2024年には、学習シートの各テーマに対応したワークシートも作成されました。子どもだけでなく大人にも「わかりやすい」と大好評を得ています。
学習シート(右上)とワークシート(右下)
今回、名古屋市在住の阪田樹生(いつき)くん(中学1年生)と、楓翔(かいと)くん(小学5年生)が、このリーフレットを持って城内を探検し、その後で学習シートとワークシートに取り組んでくれました。その様子をレポートします。
また、レポート後半では、リーフレット・学習シート・ワークシートの内容を監修した先生3名のインタビューをお届けします。
【左】阪田樹生(いつき)くん(中学1年生)【右】楓翔(かいと)くん(小学6年生)
子ども向けリーフレットで名古屋城を探検!
樹生くんと楓翔くんは、名古屋生まれ名古屋育ち。二人とも、学校の行事で名古屋城を訪れたことがあるそうですが、しっかりと歩いて回るのは初めてだということです。
集合場所の東門から少し入った場所で、お父さんと3人でリーフレットを見ながら、「どこを見に行こうか」と相談します。
リーフレットを眺めながら、歩き出しました。
最初に立ち止まったのは、東南隅櫓の前。
次に、清正公石曳きの像の前で足を止めます。
本丸表二之門から本丸に入って進んでいくと、楓翔くんが右手の石壁に何かを発見して駆け寄ります。
リーフレットに説明のある「刻印」です。諸大名が石垣の石を運ぶときに、自分が運んだ石だという目印で付けられたというくっきりとした刻印があちらこちらに見られることに、樹生くんと楓翔くんは驚いていました。
次に目の前に現れたのは、城内で一番大きい清正石。お父さんと三人で手をつないで精いっぱい伸ばしても、長さが足りないほど大きいことがわかりました。
次は、樹生くんと楓翔くんのリクエストにより、本丸御殿の中を見学することに。本丸御殿は、藩主の住まい、藩の政治を行う場所として建てられた後、将軍用の御殿になった建物。名古屋大空襲で燃え、2018年に復元されています。
入場の列に並び、下駄箱に靴を置いて、やっと入場することができました。玄関では襖や壁に虎が描かれていて、楓翔くんはその豪華さに目が釘付けになっていました。(*玄関(虎の描かれている部屋)には、期間限定で入ることができました)
虎と一緒に自撮りで記念撮影。
廊下を歩いて奥に進んでいきます。
樹生くんがある場所で立ち止まり、興味深そうに見入っていました。
上洛殿という本丸御殿で最も絢爛豪華な部屋の前です。話を聞いてみると、「欄間に鶴やサギのような鳥が彫られていることに気づきました。この鳥を選んで彫っているということに何か意味があるのではないかと思いました」とのこと。考察しながらじっくり見学している樹生くん。普段から歴史マンガを読むことが大好きということを教えてくれました。
本丸御殿を出て、天守閣の前で記念撮影。樹生くんと楓翔くんの笑顔から、本丸御殿を満喫した様子が伝わってきます。
リーフレットを見ながらの名古屋城探検はここまで。ということで、二人にリーフレットを使ってみた感想を聞いてみました。
樹生くん 名古屋城の歴史について年表が載っていたのが興味を引きました。マップがあるので、次に行く場所を決めやすいのが良いと思いました。
楓翔くん イラストが可愛いと思いました。説明にふりがなが振ってあるのが、わかりやすかったです。
学習シートとワークシートで興味を深める
探検の次は、勉強の時間です。本丸御殿の部屋のひとつである孔雀之間で、樹生くんと楓翔くんに、学習シートとワークシートに取り組んでもらいます。
現在、発行されている学習シートは「名古屋城築城」編、「城内施設」編、「本丸御殿」編「尾張徳川家」篇、「城下町」編の5種類。それぞれに対応したワークシートがあります。
お二人には30分という短い時間内で、すべてのワークシートの問題を解くことにチャレンジしてもらいました。
学習シートとワ―クシートを見比べ、真剣な表情で黙々と問題を解いていきます。
集中力を途切れさせることなく、時間内に全てやり終えた樹生くんと楓翔くん!
学習シートとワークシートの作成に関わった先生に、採点をしてもらいます。
ワークシートが戻ってくるまでの間に、取り組んでみた感想を聞いてみました。
樹生くん 楽しんでやることができました。本丸御殿の学習シートに、それぞれの部屋の役割について書いてあったので、次に本丸御殿に行く時には、役割のことを気にかけて見学したいです。ワークシートを解いてみて、尾張徳川家についての好奇心がわいてきました。
楓翔くん それぞれのワークシートの問題数が多くないので、最後まで集中して問題を解くことができました。選択式の問題があるのも良かったです。とても勉強になりました。
先生から返ってきたワークシート。二人とも、大きな花マルをもらっていました。
子どもたちがわかりやすく、先生が活用しやすい資料を目指した
これまでご紹介してきたリーフレット・学習シート・ワークシートは、名古屋城に関する様々な企画や広報を行う名古屋城総合事務所の『名古屋城子どもプロジェクト』の一環として作成されました。
名古屋城総合事務所の依頼を受けて内容を監修したのが、名古屋歴史教育研究会。名古屋市立の小中学校で主に歴史教育に取り組んでいる現役の先生、引退した先生から構成される会です。
名古屋歴史教育研究会に所属し、今回の監修を担当した名古屋市立日比津中学校の松藤耕造さん、名古屋市立稲生小学校の藤山貴伸さん、名古屋市立宮根小学校の内藤智裕さんにお話を伺うことができました。
【左より】松藤さん、藤山さん、内藤さん
―リーフレットについて、苦労した点・こだわった点を教えてください。
松藤さん パッと見て、面白そうと思ってもらえるかどうかを大事にしました。名古屋城の歴史に関する年表については、膨大なできごとの中から何を載せようか迷いましたが、昔から現代までのつながりがわかりやすいかどうかを意識して選びました。
藤山さん 歴史に興味がない子どもたちでも理解できるように、できるだけ簡単に伝える。でも大切な内容は省かない。その線引きに苦労しました。
内藤さん 説明文を決められた文字数以内に収めることに苦労しました。子どもたちが理解できるのはどんな言葉なのかとじっくり考え、例えば櫓(やぐら)であれば、大人向けのリーフレットには「屋根二重・内部三階」と表記されているところを「2階建てに見えますが、中は3階です」とわかりやすい表現にしてあります。
―現在、学習シートはテーマ別に5種類ありますが、今後も種類が増えていくのでしょうか?
松藤さん 概論に始まって、次に庭園と建物、本丸御殿などのシートを作って、今は全部で5つですが、今年度も櫓(やぐら)や城門(じょうもん)など新しいものを3つ作成しています。今後、毎年少しずつ増やしていく予定です。
内藤さん 最初は、作った順番に1、2、3と番号を振ってあったのですが、外しました。
松藤さん 今は、子どもたちが自分の興味に合わせて自由に選択して学習していくというやり方が主流なので外しました。「1からやりましょう」と押し付けるのではなくて「やりたいシートあるかな」と選んでもらえるスタイルにしてあります。
内藤さん 学習シートのタイトルも「本丸御殿は、なぜ豪華なのでしょう」など、問いかける文に統一してあります。子どもたちが「どうしてだろう」と興味を持って学習シートを読み進めていくと、問いの答えが理解できるような作りになっています。
松藤さん リーフレットも学習シートも、内容は、名古屋城総合事務所の方と随時相談しながら決めて、最終的には名古屋城調査研究センターの学芸員さんにチェックしてもらいました。
―学習シートが完成した翌年にワークシートが発行されましたが、なぜ作ることになったのですか?
藤山さん 学校の授業で先生が使うことを想定した時に、ワークシートがあった方が授業しやすいということで作ることになりました。
松藤さん 作成にあたって、他の城郭や、博物館などのワークシートをいくつか見比べて、どんなものが子どもたちに最適なのかを考える参考にしました。
内藤さん ワークシートの問題は、子どもたちが解きやすいように、学習シートの内容に沿った順番で作ってあります。
松藤さん それぞれのワークシートには、3〜4問が載っていて、1、2問目はだいたい選択式、最後が記述式になっています。問題数が少ないのには理由があります。たくさんの問題が載ったワークシートを持参して名古屋城に行くと、子どもは問題を解くために見所の説明書きを必死に読んで、現物をちゃんと見ないということが起こり得る。子どもたちが「しっかり見る」ことを大切にできるように少なくしてあります。
―樹生くんと楓翔くんがワークシートに取り組む姿をどのようにご覧になりましたか。
内藤さん すごく一生懸命に、楽しそうにやってくれていたので嬉しくなりました。短時間だったのでやり切れるか心配していましたが、全部できていたので、取り組みやすかったのかなと。わかりやすいワークシートにしようと工夫した甲斐があったと実感しました。
―学校の教材としても使われているのでしょうか?
藤山さん 私は学校の授業で使ってみました。学校から名古屋城が見えるので、身近な存在ではあるけれど、詳しく知らないという子がほとんど。その生徒たちが、学習シートとワークシートに目を輝かせて取り組んでいて、すごく効果的な教材ができたと感じています。
松藤さん 校外学習をする際に、訪問先にワークシートがなければ先生は自分で作ります。これが結構大変。名古屋城に学習シートとワークシートがあれば、先生が校外学習の行き先として選びやすい。これができてからたくさんの学校が来ているし、うちの学校でも来ました。
2024年8月には、名古屋城総合事務所の方にお願いして、名古屋市内の小中学校の先生たちを招いた勉強会を開きました。校長先生、教頭先生、教科の先生など約30名が来てくださって、学習シートとワークシートの紹介、活用方法についての有意義な意見交換ができました。今後、益々たくさんの方が活用してくれたらと願っています。
今回ご紹介したリーフレット、学習シート、ワークシートはすべてこちらのページからPDFデータをダウンロードが可能です。学習シートは、学校の授業での利用を想定したタブレット表示用もあります。
皆さんもぜひ、一度ご覧になってみてください。
Text:Yuka Kiura Photo:Yuka Nagata