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尾張藩士も愛した!?金魚の世界 らんちゅうに魅せられて

水中を美しくゆらめき、人々を魅了する金魚。中国から渡来し、江戸時代になると庶民にも広まりました。当時は尾張藩士も愛育していたとか。

数々の品種の中でも、鑑賞価値が高いとされるのが「らんちゅう」です。らんちゅうはなぜ、"金魚の王様"と称されるほど特別な存在になったのでしょうか?名古屋城で品評会を開催している「金城会」の会長・宇野正志さんにお話を聞きました。

江戸時代に華開いた、日本の金魚文化

まずは少し、金魚の歴史をおさらい。金魚が日本に伝わったのは室町時代のこと。貿易港として栄えた大阪の堺に、フナに近い体形の「和金(ワキン)」がやってきたのがはじまりだといいます。

江戸時代には、日本各地で新しい金魚の品種が出現しました。

たとえば、尾張や三河地方で古くから飼育されている「地金(ジキン)」。和金からの突然変異によって生まれた地金は、尾張藩士の天野周防守が種として固定化したといわれます。藩の自慢として武士が養育係に任じられ、武家の好みが反映されたのだとか。4つに開いた尾が鯱を連想させることから、"鯱金"とも呼ばれたそう。なんとも、名古屋らしい名前ですね。現在では愛知県の天然記念物にも指定されています。

「上見」で楽しむらんちゅう

今や、金魚の品種は日本産だけでも33種類あるそう。それぞれ姿かたちが大きく異なり、特にらんちゅうは独特の体形が特徴的です。らんちゅうを愛する宇野さんの自宅を訪れ、実際に見せていただくことに。

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「いらっしゃい、どうぞ奥へ」

宇野さんに案内されるがまま進んでいくと、そこには立派な飼育池がたくさん。あくまで「愛好家」とのことですが、その趣味の規模感に驚きです。

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「写真は真上から撮るといいですよ。上から見た泳ぎ姿や尾っぽが肝心だからね」と宇野さん。

金魚を上から鑑賞することを「上見(うわみ)」というのだそう。らんちゅうの品評会でも、上見での美しさが審査のポイントになります。

ガラス水槽がなかった時代、金魚は陶器に入れて上から見て楽しむものでした。そのため、上見にふさわしい形状に改良がなされ、追求の結果に誕生したのが「らんちゅう」だったのです。

らんちゅうには背びれがなく、頭部に「肉瘤」と呼ばれるコブがあるのが特徴。横から見るとずんぐりしていますが、上から見ると背なりや尾形の美しさを感じられます。

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「らんちゅうは尾が開いているのが綺麗でね。この2匹は昨年の子。二歳魚ですね」

品評会では、飼育年数によって部門が分けられるそうです。ふ化した年は「当歳魚」、2年目は「二歳魚」、3年目以降は「親魚」。春に生まれた当歳魚が成長し、冬越しを迎える前の晩秋に品評会が行われます。

スクリーンショット 2021-11-12 10.08.01.png宇野さんに見せていただいた、過去の品評会の記念図録。

「全体の形や泳ぎ方を総合的に審査するんです。私の感覚だと、100点満点中で頭が30点、背から腰にかけてが20点、尾が50点くらいの採点分配じゃないかな。肩のあたり(尾肩)から尾の先までを下にして泳ぐ、軽やかな尾捌きのらんちゅうが特に評価されますね。審査の結果、相撲の番付のように順位が付けられます」

最高位が「東大関」、次いで「西大関」、さらに「立行司」「東取締」「西取締」......と格付けされるのだそう。

スクリーンショット 2021-11-12 10.08.20.png宇野さんのらんちゅうが東大関に選ばれた際の、記念の額。らんちゅうを模した立体的な細工が素敵。

ちょっと気になるのが、番付に「横綱」がない点。

「本当の相撲でも、2場所連続優勝かそれに等しい成績を残さないと横綱になれない。らんちゅうの場合はもっと厳しくて、当歳魚・二歳魚・親魚の3回連続で東大関をとって、はじめて横綱になれるんですよ。今までに横綱が出たのは、1回だけ聞いたことがあるかな」

横綱が出ることはほとんどないものの、品評会ではもしものために「横綱」と書いた番付板も用意しているのだとか。

愛知や静岡の種魚が、遠くは九州まで伝播

ちなみに、愛知県では弥富市が"金魚の名産地"といわれます。郡山の金魚商人が熱田をめざす道中、前ヶ須(現在の弥富市)で金魚を休めたことをきっかけに、金魚の飼育が始まったのだそう。

「弥富金魚は和金やリュウキンといった種類が多くて、らんちゅうが弥富の一般小売店に並ぶようになったのは昭和4243年頃からですかね」

また、昭和5060年頃になると、愛知・静岡周辺ではらんちゅうのブームが起きたそうです。

「東京や大阪に比べて土地が確保しやすいので、飼育する人が増えたんじゃないかな。その頃には、愛知や静岡で生まれた良質な種魚が四国・中国・九州地方へと広がりました。好きな人はどんなに遠くても買いに行くんですよね。さらにインターネットが普及してから情報が入手しやすくなり、流通が盛んになりましたね」

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金魚を取り巻く文化・歴史は、江戸から始まり、現代まで少しずつ変化してきました。その中で、らんちゅうもじわじわと地域に根付いていったようです。

生きる芸術品!らんちゅうの楽しみ方

今でこそ、金城会で会長を務めるまでとなった宇野さん。らんちゅうとの出会いは幼い頃だったといいます。

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「父が動物好きだったので、いろいろ飼っていて。ヤギでしょ、それからウサギ、犬。あるとき金魚を飼い始めて、金魚愛好会で活動するようになり、いつの間にからんちゅうにも夢中になっていたようです。それから、知人の紹介で金城会にも顔を出すようになったみたいですね。そんな環境で育ったので、私自身も自然とらんちゅうが好きになりました」

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エサやりを欠かさず、こまめに水替えを行い、らんちゅうに向き合う日々。そこまで手間をかけてでも、宇野さんがらんちゅうの飼育を続ける理由とは何なのでしょうか。

「らんちゅうを通じて人とのつながりが広がるのが楽しくてね。趣味の世界というのは、エリート社長だろうが新米社員だろうが対等。一緒にわいわいできればいい。仲間の存在があったからこそ、ここまで続けられたと思います」

2021年で第65回を迎える、金城会の「全国らんちゅう品評大会」。うち、50年近くは名古屋城で開催をしています。

「偶然ながら、"金城会"という名前も名古屋城にぴったり。東門付近で開催するようになってからは、人通りが増えましたね。一般の人も気軽に立ち寄って見学できます。審査が終わると、らんちゅうを洗面器に入れて並べるんです。細かな違いがわからなくても、愛くるしい姿や綺麗な色艶を鑑賞するだけで充分楽しめますよ」

スクリーンショット 2021-11-12 10.28.17.png令和元年度のらんちゅう品評会の様子

愛好家が手塩にかけて育てたらんちゅうが集結する貴重な機会。宇野さんの場合、稚魚の段階から選別を繰り返し、最終的に飼育する個体として残るのは0.3%程度だといいます。さらに、その中から実際に品評会に出品できるのはわずか数匹。番付上位に限らずとも、すごい確率を勝ち抜いてきたツワモノたちなのですね。一匹一匹に個性のあるらんちゅうを、ぜひ近くで覗いてみてください。

秋の名古屋城で、「全国らんちゅう品評大会」開催

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2021年1114日(日)には、「名古屋城 秋のおもてなし」のイベントのひとつとして「第65回 全国らんちゅう品評大会」が開催されました。

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爽やかな秋晴れの空の下、きらめく水面に泳ぐらんちゅうたち。名古屋城の見学に訪れた人たちも、思わず足を止めて見入っていました。

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熱心に撮影をする愛好家や、夢中になってじっと観察する子どもの姿も。特に、らんちゅうを初めて見る人たちからは、親魚のサイズ感に「こんなに大きいの?」と驚く声が聞こえてきました。写真では伝わりきらないほど、その泳ぎ姿には存在感があります。

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品評会の最後には、各部門上位の優等賞(東大関・西大関・立行司・東取締・西取締)を表彰。賞状と記念の額が表彰者に手渡されると、会場からは拍手が起こりました。

また次の秋、再び品評会にらんちゅうが集まるのが楽しみですね。

Text:Miyuki Saito Photo:Yasuko Okamura

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