名古屋のシンボルといえば名古屋城。名古屋城のシンボルといえば金の鯱、通称“金シャチ”。すなわち金シャチ=名古屋のシンボルです。事実、町を歩けばあっちにもこっちにもその姿が。彼らを探して歩く金シャチさんぽ」に出かけましょう!
マンホールのふたにマスコット、お土産のパッケージ。犬も歩けば金シャチに当たる...(!?)
壁絵の金シャチが結構デカい。食べられそう~(?)
ご案内するのは名古屋ネタライターこと私、大竹敏之。2020年元旦からTwitterに「#一日一鯱」をつけて、毎日欠かさず金シャチを一匹"捕獲"しては投稿しています。日課の投稿は2年目に突入し、コツコツ集めた金シャチは400匹以上に上ります。
「町中で金シャチ?」とまだピンとこない方もいらっしゃるかもしれません。マンホールのふた、地下鉄などのマスコットキャラクター、おみやげなど商品のパッケージ、企業や団体のシンボルマーク、パンフレットやポスターのイラスト、路上のアートにレリーフなどなど...。実は皆さんの周りに金シャチはたくさん棲息しているのです。
そこで、今回は実際に名古屋の町を歩きながら、金シャチを見つけていきましょう!
さすがおひざ元!名古屋城界わいは金シャチの宝庫
地下鉄市役所駅ホームから改札へ向かう階段の壁に金シャチが! 名古屋城はこっち、と道案内してくれているよう。
スタートは名古屋城のおひざ元、地下鉄市役所駅から。地下鉄を降りて改札へ向かうと,早速金シャチがお出迎え。階段の側面の壁に大きな金シャチの絵が! 階段の縦面には天守が描かれ、このてっぺんにももちろん金シャチがいます。
階段には名古屋城天守が描かれてっぺんにはもちろん金シャチが。
市役所にも意外なところに金シャチが。本庁舎の屋根は城郭を模した帝冠様式といわれるもので、東西南北ににらみを利かす「四方にらみのシャチ」が3層にわたって合わせて12体載っています。その他にも植え込みの柵、西庁舎の入口の取っ手など、デザイン化されたシャチがひそんでいます。
市役所本庁舎周りの植え込み。柵の飾りとして金シャチが透かし彫りされている。
西庁舎では入口の取っ手に金シャチの浮かし彫りが。ちょっとした意匠にさりげなく金シャチをひそませているところに、設計者の深いシャチ愛を感じる。
このようにシルエットだけで金シャチと分かるところも、金シャチが様々な形で広まっている要因と考えられる。
金シャチ横丁は名前の通り、金シャチを象徴するような場所。それを印象づけるのが金鯱水(きんこすい)。金シャチの口から出る名古屋の美味しい水をペットボトルなどに汲んで飲むことができます。
金鯱水は宗春ゾーン、義直ゾーンに各1体。
取材の移動中にふと見つけたのがこちら。名古屋城のお堀の外側、北西角の小さな緑地、樋ノ口街園。城の屋根をモチーフにした石のオブジェがあり、両端にちゃんと金シャチが載っています。町の景色にとけ込んでしまって目立ちませんが、何げない感じでひそんでいる金シャチを見つけるのが金シャチさんぽの醍醐味です。
屋根は石、金シャチは金属製。区画整理の過程でぽっかりと生まれてしまったような極小の緑地にある。
円頓寺商店街界わいも名古屋城にほど近いだけあって金シャチの群棲地。かつてはお神輿として使われていた大きな張り子の金シャチに、商店の店先にかかるのれん、金シャチの焼き印を押した和菓子も売られています。
円頓寺本町商店街の店舗には金シャチののれんが。紺や茶色、白など色違いで数種類ある。
円頓寺本町商店街の張り子の金シャチ。かつては祭りの神輿として使われていた。
円頓寺本町商店街の和菓子店「松露堂」。
店内に掲げられている生菓子組合のパネルにも金シャチ。強そうだけどかわいいナイスなデザイン。
松露堂の名物、金鯱きんつば。金シャチの焼き印がかわいい。
名古屋城から国道22号を北西へ。2kmほど進むと建物の壁に巨大な金シャチが見えてきます。枇杷島スポーツセンター併設の公営住宅の壁に推定高さおよそ10m、おそらく世界最大の金シャチのレリーフがあるのです。歩くとちょっと距離がありますが、スケールもデザインも見事な金シャチは一見の価値アリです。
公営住宅の東西の壁に巨大なシャチが。写真は西側のシャチ。東側のシャチもデザインは同じだが向きが異なる。
名駅、栄、大須。町の中心部にも金シャチが
町の中心部にも印象的でユニークな金シャチはたくさんいます。
名古屋駅ならKITTE名古屋のアトリウムの金シャチ型のベンチ。GOLD FISHと名づけられたアート作品です。ちゃんと左右一対で向かい合っているところもミソ。場所も分かりやすいので「金シャチで待ち合わせ」というのもいいんじゃないでしょうか。
KITTE名古屋の金シャチ型のベンチは現代アーティスト・祐成政徳氏作の「GOLD FISH」。名古屋の市章「八」にちなんで高さは8・88m。向かい側には一回り小さい銀色のシャチのベンチもある。
栄ではメインストリートにいくつもの路上金シャチが見つかります。広小路通では千成びょうたんをモチーフとした街灯の一本一本に金シャチのレリーフが。栄交差点の北側のバス停屋根にもキラキラ光る金シャチがいます。さらに夜になれば錦通りに金シャチのネオンが現れます。
伏見~栄間の広小路通りに並ぶ街灯の金シャチレリーフ。よく見ると三角形の組み合わせでできた秀逸なデザイン。
栄のバス停の屋根にも金シャチ。広小路通り沿いの北側にだけある。
大須には新旧の金シャチグルメが。人気のカフェ「KANNNON COFFEE」ではカフェラテなどにしゃちほこビスケットをトッピング。ちょっとほろ苦さがあり、ドリンクのおいしさがいっそうアップします。
「KANNON COFFEE」ではドリンクにしゃちほこビスケットをトッピング。自家製キャラメルラテが絶品でビスケットを合わせるとほろ苦さの共演でさらにおいしく。
万松寺通りの「志那河屋」は大正創業の昆布の老舗。のれんやパッケージに使われているシャチのトレードマークがレトロでかわいらしい! 店内には金シャチをデザイン化した古い包装紙や、戦後の名古屋城天守の再建を記念して市内のシャチが名前につく企業同士(シヤチハタや鯱もなかなど)でつくった記念の置物が飾られていて、さながら金シャチ資料館といった趣です。
「志那河屋」は名古屋では珍しい昆布の専門店。酢こんぶのパッケージなどに使われている金シャチのトレードマークがかわいい。
店内に飾られている立派な金シャチの置物は、名古屋城天守の再建記念に市内の「鯱」がつく社名の会社が共同でつくったそう。
さんぽ中は地面にも目を向けてください。消火栓の蓋にも金シャチが!市内で屈指の数を誇るタイプのシャチです。この他、マンホールのふた、測量基準点なども"地べた系"金シャチ。金シャチさんぽは上にも下にも目を配らなければなりません。
消火栓の蓋。よく見ると天守+金シャチ、金シャチ天地一対の2種類があり、色も背景が黄色いものや無着色のものなどがある。
近代以降深まった金シャチ愛は名古屋人の郷土愛の象徴
このように、名古屋の町ではちょっと歩くだけで個性豊かな金シャチと遭遇できます。他にも、名古屋市交通局のマスコットのハッチ―、名古屋市消防局のマスコットのケッシーも目にする機会は多く、名古屋駅のキヨスクへ行けばパッケージに金シャチが描かれたおみやげがズラリと並びます。さらに、名古屋市職員のバッヂ、陸上自衛隊守山駐屯地では正門の装飾、キャップの図柄、戦車の車体のシンボルマークにもなっています。
ベストセラー『京都ぎらい』の著者・井上章一さんの著作に『名古屋と金シャチ』(NTT出版・2005年)という名著があり、そこで井上さんは名古屋における金シャチの浸透ぶりとキャラクターの変遷をこんな風に記しています。
「(天守から降ろされた金シャチが全国、海外の博覧会に出展された明治初期)以後、名古屋はさまざまなもよおしで、シャチの図像をつかうようになる。名古屋を喧伝する機会があれば、金シャチ像を前へおしだすようになりだした」「(明治中期以降)金シャチはグラビアやブロマイド、そしてフィギュアのあふれるスターになったのだ」「名古屋城の金シャチを忠実になぞるシャチから、マスコット的なシャチへ。威厳のある封建時代の象徴から、こっけいでかわいい商品へ」・・・。
これを読むと名古屋人の金シャチ愛は近代以降に特に深まり、近年は親しみやすいカジュアルなものとしていっそう広がりを見せていることが分かります。ともあれ、ひとつのモチーフがこれほど地域に広く浸透し、他府県の人にも地域のシンボルとして認識されているケースは他に類がないのではないでしょうか。
いわば町にあふれる金シャチは名古屋人の郷土愛を象徴するものといえます。ひとつ見つけるごとにそんな愛情を感じながら、金シャチさんぽを楽しんでみてはいかがでしょう。
Text:Toshiyuki Otake Photo:Yasuko Okamura
「松露堂」
明治10年創業の老舗和菓子店。親しみやすい店構えが円頓寺本町商店街の雰囲気によく似合います。主力商品は半生菓子。上生菓子よりも日持ちがし、おみやげとしてもおすすめです。金鯱きんつばは4代目が今から20年ほど前に考案した名物商品。寒天を金シャチ型に固めた錦玉製の菓子、その名も金シャチはとりわけ名古屋土産にぴったりです。
金鯱きんつば 1個130円
金シャチ 一袋 250円