催し

イベントアーカイブ

本丸御殿を飾る漆工芸 ―江戸の姿が蘇るまでの裏側を語る―

2024年03月16日

本丸御殿を飾る漆工芸 ―江戸の姿が蘇るまでの裏側を語る―の画像


数々の伝統の技で復元された本丸御殿。今回は漆工芸に注目し、復元に関わった「漆工町 木曽平沢」の先生にお話いただきます。夜の本丸御殿を見学し、ご解説いただく時間も。

日時

2024年3月16日(土)18時00分〜20時00分

会場

本丸御殿孔雀之間(名古屋城正門前で受付)

講師

太田 洋志 / 塩尻・木曽地域地場産業振興センター 専務理事

料金

500円(別途、名古屋城入場料が必要)

定員

35人

申込方法

大ナゴヤ大学HP内ページ よりお申し込みください。

当日スケジュール

17:45 名古屋城正門にて受付開始
18:00 本丸御殿孔雀之間に移動
18:15 講座開始
19:45 終了、孔雀之間を退出
20:00 解散

主催:名古屋市(名古屋城総合事務所)
運営:大ナゴヤ大学

日暮れ後も春の陽気が感じられた3月16日に、城子屋「本丸御殿を飾る漆工芸―江戸の姿が蘇るまでの裏側を語る―」が開催されました。

先生を務めるのは、「塩尻・木曽地域地場産業振興センター」専務理事で本丸御殿復元事業に漆塗り責任者として参加した太田洋志さん。当日は長野県・木曽平沢からお越しいただきました。

講座の前半は、漆や木曽漆器の歴史、特徴といった基礎知識の解説と、本丸御殿復元事業のあらましについて講義が行われました。

漆の材料は、ウルシノキに代表されるウルシ科の樹液(エマルジョン)。樹液を集める漆掻き職人が「漆の一滴は血一滴」と言うほど、大切に扱われてきました。

漆は「麗し(うるわし)」「潤し(うるおし)」、あるいは「潤汁(うるしる)」「塗汁(ぬるしる)」などが語源といわれ、「潤=光沢」の意味を含んでいると考えられているといいます。つややかな光沢が特徴なので納得です。ちなみに、字源は「木から汁が流れる形」だそうです。さんずいが使われているのは、汁の意味合いが大きかったからなのでしょうね。

また、樹液には空気中の水分と反応して硬化する性質があるのだとか。酸にもアルカリにも強く抗菌作用があるなど、食器として使う場面を想像しても、使い勝手が良さそうと感じます。

ただその製造工程はとても細かく、本当に時間のかかるものです。「埃などの付着物があったら、表面を研いでイチからやり直しです」と太田さん。本丸御殿のふすまの縁や天井など、いたるところに漆塗りがあることを考えると、復元にはどれほどの時間を要したのだろう……と途方もなく感じます。

太田さんをはじめ職人の皆さんは本丸御殿復元にあたり、漆塗りはもちろん金箔や蒔絵などの加飾も手がけました。加飾部分は600カ所以上。すべて絵柄が異なり、その一つひとつをすべて、当時の姿のまま再現したといいます。

「建具にこれほどの蒔絵を施すことはそうそうありません」と太田さん。「それだけ、本丸御殿の建設には力が入っていたのでしょう。もしかしたら絵柄が少しずつ異なるのは、短工期で仕上げるために人海戦術で加飾をしていたからかもしれませんね」と、想像をめぐらせていました。

後半は太田さんの解説のもと、夜の本丸御殿を見学しました。

「漆に注目して本丸御殿を観賞することもなかなかないでしょう」と太田さん。

ふすまの縁を指差し「さきほどお話ししたように、少しずつ絵柄が異なりますよね」と紹介した際には、「本当だ!」との声が上がる場面もありました。



復元時のエピーソドを交えながらの太田さんの職人さん目線の解説に、生徒の皆さんも写真を撮ったり、メモを取ったりしながら耳を傾けていました。

見学から戻ると、太田さんが持参した資料やサンプルを生徒の皆さんとともに囲む時間もありました。加工の工程などを目にできる機会はなかなかないことかと思います。太田さんに「これは何ですか?」とわいわいと質問をしていたのが印象的でした。


何度見ても、毎回新たな発見がある本丸御殿。これまでにもたくさんの職人さんの解説を耳にしてきましたが、まだまだ発見がありそうです。

カメラ・レポート/伊藤成美