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「あわれ・あっぱれ・見栄っぱれ ~ワキから見た本丸御殿~」安田登×いとうせいこう×橋本麻里

2019年03月02日

「あわれ・あっぱれ・見栄っぱれ ~ワキから見た本丸御殿~」安田登×いとうせいこう×橋本麻里の画像

名古屋城文化発信プロジェクト RE:PRESENTATION 名古屋城の「見栄方」 Vol.1

あわれ・あっぱれ・見栄っぱれ ~ワキから見た本丸御殿~
安田登×いとうせいこう×橋本麻里

名古屋城本丸御殿とはいったい何なのか?目もくらむような煌びやかな意匠は、まさに「見栄」の極み?
そこに秘められた謎について、解読の達人であるお三方が語り合います。鼎談のほか、安田氏による謡・舞の実演も予定。

安田 登(Noboru YASUDA)

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1956年生まれ。能楽師(ワキ方・下掛宝生流)。Rolf Institute公認ロルファー。東京を中心に舞台を勤める。また、シュメール神話『イナンナの冥界下り』でのヨーロッパ公演(アーツカウンシル東京の助成)や、金沢、松江での『天守物語(泉鏡花)』の上演など、謡・音楽・朗読を融合させた舞台を数多く創作、出演する。著書:『異界を旅する能(ちくま文庫)』、『あわいの力(ミシマ社)』、『イナンナの冥界下り(ミシマ社))』、『日本人の身体(ちくま新書)』、『身体感覚で『論語』を読みなおす。(新潮文庫)』、『身体感覚で芭蕉を読みなおす。(春秋社)』、内田樹氏との共著『変調「日本の古典」談義』(祥伝社)など多数。


いとうせいこう(Seikou ITO)

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1961年生まれ、東京都出身。1988年に小説「ノーライフ・キング」でデビュー。1999年、「ボタニカル・ライフ」で第15回講談社エッセイ賞受賞、「想像ラジオ」で第35回野間文芸新人賞受賞。みうらじゅんとの共作『見仏記』はロングセラー。執筆活動を続ける一方で、宮沢章夫、竹中直人、シティボーイズらと数多くの舞台をこなす。音楽活動においては日本にヒップホップカルチャーを広く知らしめ、日本語ラップの先駆者の一人である。現在は、ロロロ(クチロロ)、レキシ、DUBFORCEで活動。テレビのレギュラー出演も多数。

橋本麻里(Mari HASHIMOTO)

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日本美術を主な領域とするライター、エディター。公益財団法人永青文庫副館長。出版社勤務を経てフリーランスに。新聞、雑誌等への寄稿のほか、NHKの美術番組を中心に、日本美術の楽しく、わかりやすい解説に定評がある。著書に『美術でたどる日本の歴史』全3巻(汐文社)、『京都で日本美術をみる[京都国立博物館]』(集英社クリエイティブ)、『変り兜 戦国のCOOL DESIGN』(新潮社)、共著に『SHUNGART』『原寸美術館 HOKUSAI100!』(共に小学館)、編著に『日本美術全集』第20巻(小学館)。ほか多数。

◎ 定員:60名 ※定員に達し次第、締切ます。
◎ 受付は正門前です。※本丸御殿までは歩いて10分程かかりますので、お早めに受付をお願いいたします。
◎ 講演時間は約90分間です。
◎ 問合せ先は名古屋城文化発信プロジェクト事務局まで。 
【注意事項】
・お席は自由席です。表書院のお座敷に30席程度、廊下にイスにて30席程お席をご用意しています。
・表書院には暖房がありませんので、あたたかくしてお出かけください。

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名古屋城文化発信プロジェクト RE:PRESENTATION 名古屋城の「見栄方」について
http://nagoya-castle-re-presentation.com

昔の人は、見えないものが見える方法を知っていました。
月あかりに恋しい人の面影が見え、風の音に秋の姿が見えていました。
見えは、見得であり、見栄。
歌舞伎や能の「見得」は、決めポーズに物語を凝縮して魅せますが、
名古屋人の「見栄」にも、実は名古屋文化の本質が見え隠れしています。

名古屋城の魅力も、ただ見るだけでは、見えない。
見える方法「見栄方」を知れば、見えてくるものがあるのです。
名古屋の原点が見える。徳川の生き様が見える。
名古屋城の「見栄方」が変わる出会いが待っています。

※リプレゼンテーション=<表象・表現>すでに有るものを再表現し、いままで見えていなかった価値を創出すること

◎名古屋城の「見栄方」を案内するのは、各分野の粋人たち。伝統芸能からサブカルへ、過去から未来へと自在に立ち位置を変えながら、いままで見えていなかった名古屋城の姿を見せてくれます。

【お問合せ先】 名古屋城文化発信プロジェクト事務局(株式会社クーグート内) / 052-262-6697
● 主催:名古屋市 ● 企画制作:小島伸吾・株式会社クーグート ● 音響・照明:土井新二朗 ● 協力:やっとかめ文化祭実行委員会
※名古屋城入場料について●大人=500円●名古屋市内高齢者(敬老手帳持参の方)=100円●障害者手帳をご提示の方=無料(付き添い2名まで)●中学生以下=無料

名古屋城文化発信プロジェクトRE:PRESENTATION 名古屋城の「見栄方」Vol.1
あわれ・あっぱれ・見栄っぱれ ~ワキから見た本丸御殿~

201932日、特別に公開された夜の本丸御殿において、第1回名古屋城文化発信プロジェクトが開催されました。「あわれ・あっぱれ・見栄っぱれ ~ワキから見た本丸御殿~」をテーマに迎えたゲストは、能楽師(ワキ方・下掛宝生流)の安田登氏、小説家・俳優など広く活躍するいとうせいこう氏、日本美術を主な領域とするライター橋本麻里氏。本丸御殿表書院においてお三方による鼎談が行われ、後半には安田氏による謡も披露されました。

今回のプロジェクトで掲げられた、RE:PRESENTATION(リプレゼンテーション)とは、すでに存在すものを再表現し、今まで見えていなかった価値を創出するという意味の言葉。名古屋城にはさまざまな魅力がありますが、サブタイトルに「見栄方」とあるように、各分野の粋人たちによって、ただ眺めるだけでは見えてこない名古屋城の価値を再表現し、新たな「見え方」を提案しようという意欲的な企画となっています。

その第一夜の舞台となったのが、史実に忠実に復元された本丸御殿。各部屋を飾る障壁画はあまりに絢爛豪華で、それを観賞するだけでも当時の藩主の生活ぶりは伝わるのですが、実は絵には深い意味が込められています。その意味をひもといてくれるのは、解読の達人であるお三方です。まずは橋本氏から障壁画についての解説がありました。

襖絵や屏風などの障壁画の特長は、“動く”ことです。たとえば、屏風は畳んだり向きを変えたりすることで、絵の見え方を変えることができますね。襖絵も開けたり閉じたりすることで、画面の大きさや見え方が変わる。絵師は、それを最初から計算に入れて描いているんです」

「一般的には、部屋に入って右から反時計回りに時間が流れ、春夏秋冬と四季が描かれています。また、昔は普通の家でも応接間、茶の間と部屋の機能がわかれていましたが、本丸御殿は部屋の機能が細かくわかれていて、障壁画には各部屋の機能や格式にふさわしい画題が選ばれています。画題は格式の高い方から、山水、人物、花鳥、走獣の順。まず、外に近い玄関には虎や豹が、表書院の襖には花鳥が描かれています。また、一段上がって藩主が座る部屋の床の間には松が。松は常緑の木で、中国では古くから皇帝の象徴とされてきたものです」

橋本氏から障壁画について一通りのレクチャーを受けると、単純に豪華さや美しさだけに見とれるだけでなく、その絵が描かれた意図が気になり、がぜん障壁画が面白くなってきます。そしていよいよ、お三方の座談会。障壁画の謎解きが始まりました。

いとう氏は「襖絵を閉じたり、開けたりすると、意味がどんどん変容していく。このシステムはすごいなと感心しました。そもそも障壁画はメディアとして“動く”という点を押さえないといけませんね」と、あらためて障壁画の見方について言及。橋本氏は「座っている場所によっても、見える絵が違うという点にも注目です」と続けます。

「将軍家光を迎えるために増築された上洛殿には、大和絵より格上の漢画、中国皇帝の政治を絵画化した帝鑑図が描かれています。そして、一つひとつの間を見ていくと、家臣が通される間には訪れた人をもてなし、安心させる絵が描かれているのに、一段上の将軍が座る間の背景には、法によって厳しく罰することを意味する絵が描かれているんです」

これについて安田氏は「背景の絵は、前の方に座る身分の高い人しか見えない。そこに意味があるということですね。また、本当に頭の良い人はしゃべらないもの、という意味合いの絵も描いてありますね」と、さらに絵の意味を読み解きます。

「つまり、黙れということですね、恐ろしい…(笑)」と、いとう氏が示唆するように、一つの画の裏側には、さまざまな思惑があることが見えてきました。

一方、将軍だけにしか見えない襖の内側には、中国の皇帝を諭す内容の絵が描かれています。

「画題を選択しているのは初代藩主の義直です。徳川家康の9男であり、迎える将軍家光は孫。つまり叔父と甥の関係です。その頃はまだ御三家の権威が固まっておらず、家光が尾張徳川家をどう見ているかわかりません。騒乱の種は積んでおきたいわけですが、将軍を戒めるような内容の絵なんですね」と橋本氏。この絵を家光がどう見たか。義直の真意や家光の気持ちを想像すると、また絵が違って見えてきます。

また、藩主が身内や家臣との私的な対面や宴席に用いた対面所については、多くの人物を描いた、いわゆる風俗図が描かれています。「アクロバティックな舞や綱渡り、髪結いをしている風景などが描かれていますし、子宝の神様や夫婦の関係を示すような絵もあります。この絵を見て歌を詠むなど、ここで歌会なども行われたかもしれません」と安田氏

いとう氏は、「絵を描いている人が、見る人を楽しませようとしていますね。一つの部屋に春夏秋冬が描かれているのも、連歌を巻くなど遊べるという理由があったのかもしれないですね。それが道行のような芸能になっていったのでは」と語ります。

お三方の話が盛り上がる中、あっという間に前半が終了。

後半は安田氏といとう氏の夢のコラボレーションが実現し、夏目漱石『夢十夜』から第三夜の語りが披露されました。

また、せっかくの機会なので金壁に描かれた常緑の松にちなんで、参加者全員で「高砂」の謡にも挑戦。朗々とした声が、夜の本丸御殿に響きわたりました。

最後に、「周囲の環境や建物の中でのその部屋の位置を意識すると、絵の見え方が新しくなる」「対象として見るではなく、自分がプレイするためにあるのが日本の美術だと思う。ぜひ名古屋の人には、こういう機会を今後もつくって、プレイする目を養ってほしい」など、ゲストの方々に名古屋城の見え方や日本美術の遊び方についてヒントをいただき、会は閉幕しました。