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ムーンシャドウキャッスル~猿面茶席での満月夜咄~

2018年11月23日

ムーンシャドウキャッスル~猿面茶席での満月夜咄~の画像

MOONSHADOW'S CASTLE(ムーンシャドウキャッスル)
 〜猿面茶席で満月夜咄〜

月の光によって照らされ、落ちる影。
光の当て方によって物事はいくらでもその表情を変えます。

満月の下、月にまつわるうたを語り、月あかりの庭に音が鳴る。

月の影を愛でる、いつもとは見方を変えた名古屋城の夜。

11月23日(祝)の夜、満月のおとずれを、名古屋城の茶席にて、詩と現代音楽で迎えます。
冬の夜に行なわれる茶会のことを夜咄(よばなし)と呼びます。当時の尾張藩主も同じ月を見ながら楽しんだであろう夜咄。この日は、俳人の馬場駿吉氏のうたと、マザーテレコの音と、お茶を楽しむ夜咄で、月を愉しみませんか?

◎月にまつわる「うた」を披露してくださるのは、俳人の馬場駿吉氏。美術評論家でもある馬場氏に、俳句に限らず、古今東西・ジャンルを問わず月にまつわる「うた=作品」をセレクトしてもらいます。

cover-DSVlw7eqW5Q7L3LZQ7UTufMoZ2r4MmgX.jpeg馬場駿吉:俳人、美術評論家、医学博士、元ボストン美術館館長。

◎後半は、マザーテレコによる、現代音楽のパフォーマンス。エレクトロニクスの音楽に、名古屋城で拾うオーガニックなサウンドを掛け合わせて、月夜の茶席で奏でます。

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マザーテレコ:元Open Reel Ensembleメンバーである佐藤公俊と難波卓己から成る電子音楽バンド。2015年10月結成。エレクトロニクスとオーガニックなサウンドを掛け合わせ生み出されるダンスミュージックは『その場限りの揺れ』で、懐かしくも新しいサウンドスケープを表現する。
Mother Tereco Official Website:http://mothertereco.com/
Biography:東京コレクション、"Kiehl's"と"宇宙兄弟"のチャリティーコラボのPartyでのLIVE、アーツ前橋、水戸芸術館等のアートスペースにおいての音楽、ダンスカンパニー舞台公演の音楽、Maika Loubté「Le Zip」のミックス担当、日本科学未来館・企画展『GAME ON』ライブサポート、『MUTEK JP 2017』出演
Discography:デビュー・アルバム『Oracle』(2017年2月8日発売)

◎会場は、名古屋城天守閣北側、御深井丸に位置する茶席。当日は、馬場氏のうたを庭で聞き、マザーテレコの音楽を聞きながら庭をご覧いただくこともできます。cover-9wKHwtwRWRuiulqF935v5lQdu4M6HyIB.jpeg※通常、一般公開はしておりませんので、この機会に足をお運びください。

◆ 料金:2,500円/1名(入場料・お茶代込み)
◆ 定員:50名 ※定員に達し次第、締切ます。

【当日のタイムスケジュール】
17:30 名古屋城正門にて受付
※正門から茶席までは、徒歩10分程、かかります。お早めの受付、お願いいたします。
18:00頃 月にまつわるうた語り 馬場駿吉氏
19:00頃 マザーテレコ サウンドスケープ
20:00 終了予定
※後半は、お抹茶を提供いたします。回遊しながら、満月、茶庭の空間、音、お茶をお愉しみください。

【注意事項】
・受付時間は、名古屋城の閉門後になります。正門前に、特設受付を用意しますので、そちらにお越しください。正門から茶席までは、徒歩10分程、かかります。お早めの受付、お願いいたします。
・会場は日本庭園のため、段差がありますので、足元にお気をつけください。ハイヒールなどでの来場はご遠慮ください。
・屋外でのイベントとなります。防寒にはご注意ください。

【STAFF LIST】
◆ 月のうた:馬場駿吉
◆ 音楽:マザーテレコ
◆ 音響・照明:土井新二朗
◆ 企画制作:小島伸吾・株式会社クーグート
◆ 主催:名古屋市
◆ 協力:やっとかめ文化祭実行委員会

【問合せ先】
名古屋城文化発信プロジェクト事務局(株式会社クーグート内)担当:榎本紀久
enomoto@coupgut.co.jp / 052-262-6697

※名古屋城文化発信プロジェクトvol.1、2019年3月開催予定。どうぞご期待ください。

名古屋城文化発信プロジェクト Representation Vol.0
ムーンシャドウキャッスル~猿面茶席での満月夜咄~

1123日の夜、名古屋城御深井丸の猿面茶席にて、第0回名古屋城文化発信プロジェクトが開催されました。名古屋城文化発信プロジェクトは、名古屋城の文化や歴史など本質的な価値を発信するために行なわれる事業。今回はそのプレイベントとして企画されたものです。
MOONSHADOW'S CASTLE(ムーンシャドウキャッスル)〜猿面茶席で満月夜咄〜」と題された集いは、満月のおとずれを名古屋城の茶席にて、俳句・詩歌と現代音楽で迎えるという粋な遊び。俳人で美術評論家でもある馬場駿吉氏と、電子音楽バンド・マザーテレコ、ジャンルを超えた文化が月影に溶け合う夜咄(冬の夜の茶会)が繰り広げられました。

会は2部からなり、第1部は馬場氏による「月にまつわるうた語り」。古今東西・ジャンルを問わず、月にまつわる作品を解説とともに味わいます。冒頭、紹介されたのは、藤原道長による有名な一首。

「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」

栄華を極めた道長が満月を見てこの歌を詠んだのは、奇しくも1000年前の今日、1123日(旧暦1018年(寛仁21016日)だったそうです。偶然とはいえ、このエピソードが紹介されると、今宵の満月に不思議な力を感じずにはいられません。そして夜咄は、いよいよ本題へ。

月にまつわる作品として、俳人である馬場氏が選んだのは松尾芭蕉の句。連歌から発展して生まれた俳諧、俳句の成り立ちが紹介され、今宵は『奥の細道』から芭蕉が各地で月を詠んだ発句(俳句)がいくつか紹介されました。

「涼しさやほの三か月の羽黒山」

「一家に遊女も寐たり萩と月」

「月清し遊行のもてる砂の上」

江戸時代の画家でもあり俳人でもある与謝蕪村にも、有名な月の句があります。

「菜の花や月は東に日は西に」

馬場氏も自身の月の句を披露した後、江戸時代以前と以降の月の捉え方の変化を次のように語りました。「日本人は江戸時代までは、月の美しさや素晴らしさ、優しさを和歌や俳句に詠んできました。しかし、近代になると西洋の見方が入ってきて、月に魔物が住んでいるのではないかという歌が詠まれるようになってきました」

明治、大正、昭和にかけて、月の美しさよりも不気味さに心奪われるようになった芸術家たち。その端緒が詩人の萩原朔太郎です。1917年(大正6)に出た彼の詩集『月に吠える』は、これまでの文語体から脱却し、現代詩のきっかけになったとされる作品ですが、そこには月に感じる不安が詠われていると、馬場氏は語ります。そして、詩集の中から、犬が月に向かって吠えている様子を描いた3つの詩、「悲しい月夜」「ありあけ」「見しらぬ犬」が朗読されました。

「見しらぬ犬」の最後の一節には、こう書かれています。

とほく、ながく、かなしげにおびえながら、

さびしい空の月に向って遠白く吠えるふしあわせの犬のかげだ。

古代から現代まで、月は多くの文学のテーマになってきましたが、音楽においてはどうだったのでしょうか。

「音楽で月と言えば、ベートーヴェンの『月光のソナタ』を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか」と馬場氏。月光のソナタは、後に詩人が月の光のように静かな曲だと名づけたもので、ベートーヴェン自身の命名ではないそうですが、その名にふさわしい青い月あかりの情景が目に浮かびます。

近代ではシェーンベルクの『月に憑かれたピエロ』。月夜の中、ピエロが不安や幻想に襲われるものの、暁になってふっと現実に戻るというストーリーが描かれた作品で、馬場氏はこの楽曲にもっとも関心があると語ります。

元ボストン美術館館長で美術にも造詣が深い馬場氏は、最後に月を描いた絵画作品にもふれました。

19世紀末から20世紀初頭のアメリカでは、素朴で具象的な絵画が数多く描かれました。中には、ベートーヴェンの「月光ソナタ」というタイトルそのままに描いた絵もあります。また、アンリ・ルソーにも猛獣と月を描いた絵がありますね。ベルギーのシュールレアリスムの画家ポール・デルヴォーもよく月を描いています。三日月などが怪しげに描かれているのが特徴です」

古今東西、芸術家たちがどのように月を表現してきたかを比較してみると、同じ月を見ても、東洋と西洋とでは月の捉え方が異なることがわかります。また、時代によって月の捉え方は変化しており、江戸時代、名古屋城の藩主がどのように月を見ていたのかと思いを馳せる機会にもなりました。

月夜の庭園の散策を楽しみ、お茶で一服した後に、会は後半へ。マザーテレコによる現代音楽のパフォーマンスが行われました。エレクトロニクスの音楽に、名古屋城で拾ったオーガニックなサウンドを掛け合わせた楽曲は、今宵のために特別に作られた作品。月明かりと庭に落ちる月影の間をたゆたうような音を背景に、再度、馬場氏による『月に吠える』の朗読も行われました。

満月に照らされ、月影をしたがえた名古屋城。いつもとは見え方が異なる城の表情や、一期一会のパフォーマンスに、多くの参加者が酔いしれる一夜となりました。