表紙のページ 名古屋城天守閣整備事業の進め方に係る総括について(概要版) 令和7年5月 観光文化交流局 目次のページ 1 総括の目的と構成 1ページ 2 最終報告に対する当局の受け止め 2ページ 3 天守閣整備事業の振り返り 6ページ 4 原因の整理とまとめ 21ページ 5 今後の事業推進に向けて 23ページ 1ページ 1 総括の目的と構成 (1) 目的 「『名古屋城バリアフリーに関する市民討論会』における差別事案に係る検証委員会」(以下「検証委員会」という。)による検証が行われ、令和6年9月18日に「『名古屋城バリアフリーに関する市民討論会』における差別事案に係る検証について(最終報告)」(以下「最終報告」という。)が示され、観光文化交流局(以下「当局」という。)として受け止めるとともに、今後、二度と同様の問題や更なる問題を起こさない観点から、これまでの天守閣整備事業(以下「本事業」という。)全体の振り返りを行うことにより、事業を進める上での基本的な方針を整理し、再発防止策を含む今後の事業の進め方を示す (2) 構成 最終報告 第2章 最終報告に対する当局の受け止め 第3章 天守閣整備事業の振り返り ・天守閣整備事業の経緯 ・天守閣整備事業の展開に大きな影響を及ぼした事象 原因分析の対象、過去の担当者への聞き取り、評価・検討 第4章 原因の整理とまとめ 第5章 今後の事業推進に向けて 事業を進める上での基本的な方針、再発防止策を含む今後の事業の進め方 ・今後の事業の進め方 ・差別事案に対する再発防止策 2ページ 2 最終報告に対する当局の受け止め (1) 反省と決意 ・検証委員会においては、当局が引き起こした差別事案に係る検証として、当局が作成した資料や議会に報告した資料及び関係職員等に対するヒアリングなど、1年以上にわたり、様々な状況を確認し、調査・議論・検証を行っていただいた。「討論会での差別事案に直接的に関わる事項に関する検証」をはじめとした最終報告における指摘事項を当局として全て真摯に受け止め、起こしてしまったことや至らなかった点について、改めて深く反省するとともに、指摘事項について十分に理解を深め、今後の事業につなげていかなければならないと決意するところである (2) 見込みの甘さや、様々な意識の不足について ・最終報告においては、市民討論会の企画段階から実施決定後の準備段階、更には当日の実施に至るまで、全ての段階において問題があったと指摘されており、当局として市民討論会開催に対する見込みの甘さや本事業の重要性に対する様々な意識の不足があった ・市民参加による市の事業の実施にあたっては、通常、参加者に、開催の趣旨のみならず、事業の目的や内容について正確な情報が認識・理解されて、はじめてその開催目的を達成できるものだと認識している。様々な意見が想定される重要な事業であったからこそ、「討論会」の名称について、その目的や内容を正確かつ端的に表現し、「市民への影響」の視点に立った、十分な検討と正確な情報発信が必要であったと感じており、表現や発信方法を工夫することにより、事業の意義などについて、丁寧かつ分かりやすい情報発信に努めてまいりたい ・参加者同士が自由に意見を交わす場面が生じる可能性のある、今回の市民討論会は運営方法が特殊であると当局として認識できておらず、職員はスケジュールや業務量への負担により様々な想定ができない状態に陥っていたと指摘されている。委託業者とともにあらゆる想定をし、過去の経緯を含め関係者間で共有・理解し進めることは、主催者の当然の責任であり、本市が定めていた差別事象マニュアルの内容を十分に理解しないままに、運営上のリスク想定が不足し、差別事案への不適切な対応につながったということを改めて認識するとともに、人権感覚が低かったと痛感している ・行政として公平性に疑義のある運営を行ったこと、また、差別を容認しない姿勢を毅然と示さなかったことは決して許されるものではなく、市民の本市に対する不信感は大きいものと捉えているところである。「表現の自由も、全ての市民が等しく基本的人権を有するかけがえのない個人として尊重されることが前提である」との指摘を今一度心に刻み、関係局と連携を図りながら、信頼回復につながる取り組みを確実に実施してまいりたい 3ページ (3) 差別事象に対して適切な対応ができていなかった背景・遠因等について ・最終報告では、差別事案に対して適切な対応ができなかった背景・遠因等に言及されており、市内部での考え方の共有不足や、大規模プロジェクトにおける共通理解等の不足、スケジュールの優先が、市民の混乱を招くとともに、市民の間での意見対立を招いた背景であることに加え、「史実に忠実な復元の解釈等の不一致」が「情報提供の不十分性」や「職員の苦悩や葛藤」にも影響すると指摘されているとおり、本事業を進めるうえで、非常に大きな要素であったと改めて認識したところである ・本事業の情報発信は名古屋城の公式ウェブサイトや市民向け説明会等を活用し、一定行ってきたが、その時々の断片的な情報に留まっており、事業全体を正確に理解してもらうには不十分であったとともに、十分な共通認識がないままの情報発信であったと捉え直した。また、関係者間の円滑なコミュニケーションが取れていない時期が生じていたとの指摘にあるように、健全な職場環境であったとは言えず、「風通しのよい職場」に向けて一層取り組まねばならないと認識を新たにした。今後は、事業における考え方などの方針を整理し、市内部をはじめ広く共有することで、本市の姿勢を示し、取り組んでまいりたい。なお、今後、「市長及び副市長のハラスメント事案に関する第三者調査委員会」による調査報告書が提出された際には、その内容に応じて適切に対応していくこととする ・加えて、当局には市民討論会が人権に関わる訴えを聴く貴重で重要な場であるという認識がほとんどなく、参加者に誤解を与えるような結果を招いたことや、これまで事業を進める中では障害者団体の方のご意見を丁寧に伺ってきたにもかかわらず、市民討論会においては十分な対応をしなかったことを指摘されている。これまで積み上げてきた事業の経緯を前提とした進め方ができていなかったと認識しているとともに、「公募選定後に無作為抽出によって市民討論会を開催する際の進め方」において指摘された「人権感覚の希薄さ」は、当局として重く受け止め、特に、障害者や高齢者をはじめ配慮を必要とする当事者(以下「障害者等当事者」という。)への人権に対する配慮については、十分な検討が必要と感じている ・なお、背景・遠因等については、その影響を及ぼす範囲が市民討論会に限らないと認識していることから、本事業全体にわたり振り返る必要があると捉えている 4ページ (4) 再発防止について ・再発防止に向けては、最終報告の提言に掲げられた事項が、全ての基礎となる重要な取り組みであると認識している。また、「おわりに」に記載された「人権が市民にとって最も大切なものであることを改めて認識し直し、障害者をはじめ様々な立場の市民の人権に関わる事業を推進する際には、当事者の意見を真摯に聴くとともに、建設的な対話を通じて当事者の真意をしっかりと捉えながら、人権侵害を生じさせないよう事業を実施されたい」との指摘は、行政として基本的な対応を誤ったという根本的なものであると理解していることから、今後このようなことのないよう、市全体として実施される各種研修を活用することはもちろんのこと、当局としても障害者等の疑似体験や障害のある方に講師を依頼するなど、職員一人ひとりが障害及び障害者理解をより一層深めるとともに、改めて人権とは何かを自分事として捉えることができるよう、研修の充実を図っていく必要がある。加えて、「差別事象マニュアルの抜本的見直し」を受け改訂された差別事象対応ガイドブックの適切な理解は、再発防止に向けた基礎となる重要な取り組みであると認識しており、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下「障害者差別解消法」という。)」、条例等も含めて職員に対し確実に周知徹底しなければならないのはもちろんのこと、実際の現場において感じた差別発生のリスク等を放置することなく、差別事象対応ガイドブックが具体的かつ実践的な内容となるよう関係局とも随時情報を共有していくこともそれぞれ重要である。さらに、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(以下「バリアフリー法」という。)」の精神を踏まえつつ、障害者差別解消法に基づく環境の整備や合理的配慮の提供を関係者との建設的対話を通じて市民等の合意の基に進めていく必要性を改めて捉え直した ・これらについて、当局では、人権に関する責任者である人権監理者を、名古屋城総合事務所含め2名配置し、その人権監理者を中心として、職員一人ひとりが主体的に適切な判断を行うことができるよう取り組むとともに、本事業に関する市民向け説明会等を実施する際には、事前の準備段階から人権監理者によるチェック、助言・指導等を行うことにより適切に進めてまいりたい 5ページ (5) 今後に向けて ・今回の差別事案は、本市の事業が発端となり人権問題にまで発展させた、あってはならない問題であった。「『名古屋城バリアフリーに関する市民討論会』における差別事案に係る検証委員会設置要綱」第1条に、「差別事案について、人権の観点から、問題点や課題等を整理・分析したうえで原因を探求して再発防止を図り、もって市民の信頼回復につなげるための検証を行う」とあるように、当局として、市民の信頼を大きく損なったことを肝に銘じ、失った信頼の回復につながるよう、指摘事項を十分に理解し、再発防止を図り、将来にわたって活(い)かしてまいりたい 6ページ 3 天守閣整備事業の振り返り (1) 概要 ア 振り返りの方法 本事業を進める中で直面し、対応してきた課題から、対象事象を選定し、過去の担当者への聞き取りを踏まえて行う評価・検討において、最終報告の指摘事項との関係性を確認しつつ、その原因を推定する イ 天守閣整備事業の展開に大きな影響を及ぼした事象 事象@ 文化庁の見解に対する誤った認識と不十分な議会報告(平成25から27年度) 事象A 木造復元に係る関連議案の継続審査につながる調査検討不足(平成27から28年度) 事象B 石垣保存方針とりまとめに向けた石垣調査・体制不足(平成29から30年度) 事象C 現天守閣解体申請の継続審議につながる調査検討不足(平成30から令和4年度) 事象D エレベーター不設置方針に係る障害者等当事者への説明不足(平成29から30年度) 事象E 公募で選定した昇降設備の設置方針に係る市内部の調整不足(令和3から4年度) 7ページから8ページ (2) 文化庁の見解に対する誤った認識と不十分な議会報告 事象@ ア 概要 ・平成26年6月定例会の本会議質問において、文化庁の見解を確認することなくアンケートを実施したことについて、配慮が足りなかったとの答弁を行った ・平成27年6月の経済水道委員会所管事務調査において、文化庁の見解が「再建する場合は木造復元に限られる」として、今後は、可能な限り早期の木造復元を目指していく考え方を報告したが、同年7月の同所管事務調査において、文化庁の見解について正確性を欠く説明をしたことを謝罪した ・松前城の再建は、文化庁の復元検討委員会において木造復元しかないという結果となったことを同所管事務調査に報告したが、事実関係に誤りがあり、同年9月定例会において謝罪した ・また、同所管事務調査において、木造復元以外の選択肢についての検討が不足していることについて議会から指摘をいただいた イ 事象が生じた原因分析 原因分析の対象 ・名古屋城天守閣の整備に関する文化庁の見解について、「再建する場合は木造復元に限られる」と当局は認識していた ・整備手法の選択肢や財源スキーム、経済効果等について議会に十分な報告ができなかった 評価・検討 ・平成26年6月定例会の本会議質問における「史実と異なる鉄骨鉄筋コンクリートでの再建はできない」との見解を文化庁が示しているとの議員の発言を重く受け止めていたことに加え、文化庁に対する丁寧な確認を怠ったことにより、文化庁の考え方について、再建する場合は木造復元に限られるという誤った認識に至っていた ・当初、木造復元に向けた調査や工事にはある程度の期間が掛かると見込んでいた当局と、2020年(令和2年)7月の東京オリンピックまでという早期の木造復元を目指していた前市長の間には、考え方の相違があったと認識していた職員はいたが、平成26年度の調査において、「耐震改修し概ね40年後の木造復元」と、「可能な限り早期の木造復元」との比較検討を行い、「可能な限り早期の木造復元」に優位性があるとの結果に至っていたことから、可能な限り早期の木造復元が市内部の方針となった ・再建する場合は木造復元に限られるとの認識が正確性を欠いた説明につながり、可能な限り早期の木造復元を目指す市内部の方針が他の整備手法での再建などを含めた検討の不足につながったものと考えられる。こうしたスケジュールを優先する進め方は、最終報告でも同様の指摘(スケジュール設定の無理)がされている 推定した原因 ・文化庁の見解に関する丁寧な確認を怠った ・市内部の方針を可能な限り早期の木造復元とした 9ページから10ページ (3) 木造復元に係る関連議案の継続審査につながる調査検討不足 事象A ア 概要 ・技術提案・交渉方式の公募型プロポーザルにおける優先交渉権者の決定後、平成28年5月に、「名古屋城天守閣の整備方針」に係る2万人アンケートを実施し、その結果、木造復元を選択した回答が6割以上となったこともあり、本事業を実施するための基本設計に係る補正予算等の関連議案を同年6月定例会に提出した ・この補正予算に対し、議会より様々な指摘があり、1年近くに及ぶ継続審査となった ・収支見込みについて第三者機関での調査を実施するとともに、熊本地震を契機に石垣の安全性の確保について更なる調査が必要としたことから、竣工期限を見直すこととなった ・平成29年2月定例会において「収支相償の財源フレームを堅持するために、入場者数目標の達成に向けてあらゆる努力をすること」との附帯決議が付され可決された イ 事象が生じた原因分析 原因分析の対象 ・技術提案・交渉方式で設定した竣工時期の考え方や見直しに伴う法的整理等について、十分な検討ができていなかった ・財源フレームについて、関連議案を提出した当初においては、市内部の検討に留まっていた 評価・検討 ・前市長からの市長指示書については、2020年(令和2年)7月を竣工期限とする技術提案・交渉方式の採用にあたり、当局は前市長に対し、スケジュールや採用への懸念を説明していたとする職員がいる中で発出されたものと推認するが、技術提案・交渉方式は当局としてきちんと積み上げて説明ができる形であったと認識する職員がいるように、2020年(令和2年)7月の竣工を目指し、技術提案・交渉方式による公募型プロポーザルを進めることとしたのは、適正な手続きによるものであったと考えられる ・プロポーザルに掲げた竣工期限の設定においては、前市長と折り合いがつかなかったとする職員がいた一方で、市長指示書を受けて平成27年9月定例会に補正予算の提出を余儀なくされたことにより、議案提出までおよそ1か月しかなく、竣工期限の考え方の議論が不足している中で進められていた。こうしたスケジュールを優先する進め方は、最終報告でも同様の指摘(スケジュール設定の無理)がされている ・また、選考の過程において、「名古屋城天守閣整備事業にかかる技術提案・交渉方式(設計交渉・施工タイプ)による公募型プロポーザル実施に伴う意見聴取会」で平成29年度に設置した天守閣部会の有識者と同じ有識者に意見を伺いながら進めていたが、特別史跡名古屋城跡の本質的価値を構成する石垣については石垣部会の有識者には事前に意見を伺うことはできておらず、竣工期限の考え方に反映されることはなかった ・2万人アンケートにおいては「2020年7月にとらわれず木造復元を行う」とする選択肢がある中で、アンケート結果がどう影響するか事前検討がされていなかったとする職員がいるように、アンケート結果を竣工期限の設定に反映するかの議論が内部で不足しており、技術提案・交渉方式の手続きを進める中で、竣工期限の見直しの可能性等を含めた法的整理など、必要な想定や検討ができていなかった ・収支計画については、当局としては、他都市の状況等を踏まえるなど根拠に基づき作成したという認識を持っていたが、2020年(令和2年)7月の竣工に向けたスケジュールの中で、平成28年3月の優先交渉権者の決定後、市内部で作成し、同年4月には議会へ提示することとしたため、議会へ十分な説明ができる内容には至らなかった 推定した原因 ・2020年(令和2年)7月の竣工に向けた厳しいスケジュールの中で、史跡整備の進め方等に係る認識が不足しているにもかかわらず、竣工期限の考え方の検討や、収支計画の作成において、竣工期限を優先した進め方をしていた 11ページから12ページ (4) 石垣保存方針とりまとめに向けた石垣調査・体制不足 事象B ア 概要 ・平成29年5月に事業を開始した際には、平成30年10月の文化審議会で木造復元に係る現状変更許可申請の内容が審議されることを念頭に、同年7月までに石垣の保存方針を含めて基本計画書にとりまとめ、文化庁に提出するスケジュールとしていた ・文化財保護を前提とした考え方に立っておらず、石垣調査の内容や主体的な発掘調査の体制が不十分であるなどの、厳しい指摘をいただいた ・同年7月に、基本計画書を文化庁に持参したところ、石垣の保存方針について石垣部会との認識が一致していないとの指摘をいただき、文化庁への提出を見送った ・その後、再検討を行うも、石垣部会との認識の一致には至らず、同年10月に、文化審議会の諮問に至らなかったことを公表した イ 事象が生じた原因分析 原因分析の対象 ・石垣部会から、調査の内容や方法、体制、結果の捉え方など、文化財保護を前提とした考え方に立っていないとの指摘をいただいた ・石垣部会と認識が一致しないまま、文化庁に基本計画書を持参した 評価・検討 ・石垣調査の内容等に対し、石垣部会から指摘をいただくことは想像できておらず、また、どこまでやらなければいけないか客観的に分かっていなかったとする職員がいる中においても、石垣部会への説明を可能な限り行っていたが、石垣調査を開始した平成29年度の時点で、調査・研究を行う学芸員が不足しているなど特別史跡における調査の体制やノウハウの蓄積が組織として不十分であったことから、必要な調査研究の成果を示すことができず、認識の一致には至らなかった ・平成30年7月までに文化庁へ基本計画書を提出することは、スケジュール的に厳しいと認識していた職員もいたが、2022年(令和4年)12月の竣工期限に全力で取り組むとしたことが、石垣部会の有識者と認識が一致しないまま、文化庁へ持参したことにつながったと考えられる。こうしたスケジュールを優先する進め方は、最終報告でも同様の指摘(スケジュール設定の無理)がされている 推定した原因 ・史跡整備の進め方に対する理解及び経験が不足していた ・基本計画書をとりまとめるにあたり、竣工期限を優先した進め方をしていた 13ページから14ページ (5) 現天守閣解体申請の継続審議につながる調査検討不足 事象C ア 概要 ・耐震性が低い現天守閣を放置できないことから、平成31年1月に、現天守閣の解体を先行する方針を決定した ・同年4月に、石垣部会との認識の一致のないまま、文化庁へ現状変更許可申請を提出した。5月には、文化庁から確認事項が示され、木造復元の方針があることも現天守閣解体の理由であることを含めて回答した ・令和元年6月定例会に補正予算を提出したが、現状変更許可申請が継続審議となり、解体着工の目途が立たないなどを理由とし、議案を取り下げるとともに、同年8月に竣工期限を延長した ・また、同年9月に、文化庁から、現天守閣の解体・仮設物設置が石垣等遺構に与える影響を判断するための調査・検討が不足していること、現天守閣解体という現状変更を必要とする理由が耐震対策のみであるのか、木造復元のためであるのか整理がなされていないことなどが示された ・その後、「新たな工程案」の素案を令和2年3月に示し、文化庁から示された指摘事項への対応を最優先に進めたが、令和3年5月に木造天守の復元が現天守閣解体の理由であることを文化庁に回答したことから、文化庁から「解体と復元を一体の計画として審議していく必要がある」などの所見が伝えられ、7月に現状変更許可申請書を返却していただいた イ 事象が生じた原因分析 原因分析の対象 ・耐震性の低い現天守閣を放置できないとして、現天守閣解体を先行する方針に変更し、石垣部会との認識が一致しないまま、文化庁へ現状変更許可申請をしたが、令和元年6月には、木造復元の方針があることも現天守閣解体の理由であることを文化庁に回答し、文化庁から、現状変更を必要とする理由が耐震対策のみであるのか、木造復元のためであるのか整理がされていないと指摘された ・石垣部会の有識者の指導・助言のもと、石垣の保存方針のとりまとめを進めたが、文化庁から、解体・仮設物設置が石垣等遺構に与える影響を判断するための考古学的視点からの調査・検討が不足していると指摘された 評価・検討 ・職員の中でも、現状変更許可は解体と復元を一体で取得するものと認識して、解体先行は難しいのではないかと懐疑的であったり、木造復元を進めるには解体先行が必要だと考えているなど、市内部において現状変更許可申請に対して様々な捉え方があった ・現天守閣の解体先行は竣工期限を守れる可能性がある最後の策として認識している職員や、現状変更許可申請後に文化庁の審査と並行して石垣部会の了解を得ていくと捉えていた職員もいるなど、2022年(令和4年)12月竣工を目指して取り組みを進めていたことが推認される。こうしたスケジュールを優先する進め方は、最終報告でも同様の指摘(スケジュール設定の無理)がされている ・考古学的視点からの調査・検討については、どこまでの調査を行えばよいか分からず、当時の職員が苦悩していたことから、史跡整備の進め方の理解や経験が不足していたといえる 推定した原因 ・解体を先行する現状変更許可申請にあたり、天守閣整備の竣工期限を優先した進め方をしていた ・史跡整備の進め方に対する理解及び経験が不足していた 15ページから16ページ (6) エレベーター不設置方針に係る障害者等当事者への説明不足 事象D ア 概要 ・技術提案・交渉方式による公募型プロポーザルでは、優先交渉権者から、小型仮設エレベーター(4人乗り用)の設置を検討する提案を受けていたが、平成29年11月、優先交渉権者の提案を含めてエレベーターを設置せず、代替案(チェアリフトの設置等)で車いす使用者等の合理的配慮を目指す方針を示した ・障害者等当事者からは、事前相談も無く方針を公表したことに対して、抗議や公開質問を受けることとなり、同年11月定例会で、前市長から、障害者の方の意見を伺いながら進めていく旨を答弁した ・同年12月には、障害者等当事者の意見聴取を行いながらバリアフリーを検討する、副市長をトップとする「名古屋城木造復元天守バリアフリー対策検討会議」を立ち上げた ・平成30年5月に「木造天守閣の昇降に関する付加設備の方針」(以下「付加設備の方針」という。)を公表し、エレベーターを設置せず、新技術の開発などを通してバリアフリーに最善の努力をすることとしたが、エレベーターの不設置に対し、障害者等当事者から抗議活動が展開された イ 事象が生じた原因分析 原因分析の対象 ・優先交渉権者から小型仮設エレベーター(4人乗り用)の設置検討の提案があったが、障害者等当事者へ検討経過の説明や事前に相談することなく、優先交渉権者の提案を含めてエレベーターを設置しない方針案を公表した ・庁内プロジェクトチームを立ち上げ、検討を進めながら、障害者等当事者から意見を伺ってきたが、障害者等当事者の十分な理解を得ないまま、エレベーターを設置せず、新技術の導入を目指すとした「付加設備の方針」を公表した 評価・検討 ・当局は障害者等当事者へ事前に相談することなく、エレベーターを設置せず、階段昇降機等の代替案で車いす利用者等の合理的配慮を目指す案を平成29年11月の第6回天守閣部会で示した。当局としては市としての案をまとめた上で障害者等当事者の意見を伺うことを想定していたが、本来、案を検討する段階から適宜相談するなど意見を伺い、進めていく必要があった。こうした、市民理解のもと事業を進めていくための情報提供の不足や、障害者等当事者への丁寧さを欠いた対応については、最終報告でも同様の指摘(市としての方針を正確に理解してもらうための情報提供の不十分性、公募選定後に無作為抽出によって市民討論会を開催する際の進め方)がされている ・平成29年11月以降、前市長は独自に新技術を模索し続けていたと認識していた職員もおり、「名古屋城木造復元天守バリアフリー対策検討会議」においてエレベーターを含めた検討を進めている当局と前市長の間で、「付加設備の方針」の考え方が相違していたと考えられるが、平成30年10月の文化審議会に諮るスケジュールが大きく影響していたと認識していた職員がいるように、2022年(令和4年)12月の竣工期限に向けて、障害者団体との理解を得られないまま、エレベーターを設置せず新技術の導入を目指す「付加設備の方針」を公表した。こうしたスケジュールを優先する進め方は、最終報告でも同様の指摘(スケジュール設定の無理)がされている 推定した原因 ・障害者等当事者との丁寧な対話や意見を尊重しながら方針を決定していくという観点で、適切な対応ができていなかった ・「付加設備の方針」の検討にあたり、障害者等当事者の十分な理解を得ることよりも、竣工期限を優先した進め方をしていた 17ページから18ページ (7) 公募で選定した昇降設備の設置方針に係る市内部の調整不足 事象E ア 概要 ・令和3年6月に、文化庁から「現天守閣解体と木造復元を一体とした全体計画を取りまとめることが必要」との指導をいただき、同年12月に、令和4年度末を目途に、バリアフリー等の課題を含めて特別史跡名古屋城跡木造天守整備基本計画(以下「整備基本計画」という。)をとりまとめる旨を表明した ・令和4年4月に「名古屋城木造天守の昇降技術に関する公募」(以下「公募」という。)を開始し、障害者・高齢者が参加するワークショップなどを経て最優秀者を選定した ・同年12月5日の経済水道委員会所管事務調査において、公募結果を説明した際、当局からは、「できる限り上層階まで目指していきたい」と説明する一方で、同時刻に実施された市長定例記者会見において、前市長が「1、2階までなら合理的配慮と十分言えるのではないか」と発言した ・同月6日の経済水道委員会付議議案審査において、委員から、前市長と当局が十分に調整できていないことについて厳しく指摘され、混乱を招いたことを謝罪した イ 事象が生じた原因分析 原因分析の対象 ・昇降設備の設置階について、当局からは「できる限り上層階を目指していきたい」、前市長からは「1、2階までなら合理的配慮と十分言えるのではないか」と異なる発言を行った 評価・検討 ・当局としては、昇降設備について、上層階を目指して、障害者差別解消法の環境整備を可能な限り行う必要があると認識していたが、前市長は、階段を直接昇降できるような技術を期待しており、昇降設備はエレベーターだとして否定的な見解を示されるとともに、「1、2階までであれば合理的配慮と十分言えるのではないか」との発言が出てしまうなど、前市長と当局で昇降設備の設置に対する考え方にずれが生じていた ・障害者差別解消法の合理的配慮について、当局は上層階を目指して環境整備を可能な限り行い、どうしてもできない部分については、障害者等当事者と話し合って対応策を見つけていくものと考えていたが、前市長と認識が擦り合わなかった。また、そもそも史実に忠実な復元がどういうものであるか市内部で十分共有しないまま本事業をスタートしたことの曖昧さを職員への聞き取りで確認でき、復元と合理的配慮の考え方について、前市長と当局で認識が一致していなかった。こうした復元の考え方に係る市内部での認識の不一致については、最終報告でも同様の指摘(史実に忠実な復元の解釈の不一致、職員の苦悩や葛藤)がされている ・前市長への説明において、他の課題事項の報告が多く、障害者等当事者とのやりとりの情報共有の不足や、バリアフリーに関する調整が不足していたことなどが職員への聞き取りで確認でき、復元や合理的配慮の考え方について、議論が不足していた ・公募で選定された昇降設備を説明する具体案がないことや、公募スキームの検討経過の中で試作機の製作を取りやめたことなどから、天守内部に設置した姿を明確にイメージできなかったことが、市内部の認識の相違を生んだ要因であると考えられ、また、令和4年度までの整備基本計画の取りまとめに向けてスケジュールを優先して公募期間を短縮したことで、十分な議論が不足したことも一因となった。こうしたスケジュールを優先する進め方は、最終報告でも同様の指摘(スケジュール設定の無理)がされている ・所管副市長は、前市長の「昇降設備を設置しない、または1階まで」との固い意思を感じており、「昇降設備を設置しない」という結論だけにはならないよう、令和5年当初には、当局に対し、公募で選定した昇降設備を当初は設置せず、復元を進めて後から設置する、もしくは、公募の最低要求水準である1階まで設置するとの指示をするなど、前市長、所管副市長、当局間の認識の相違が明らかとなった 推定した原因 ・事業当初から史実に忠実な復元や合理的配慮、昇降設備に係る考え方を市内部で十分に共有しないまま事業を進めてきており、市内部での議論が不足していた ・昇降技術の公募において、整備基本計画のとりまとめに向けたスケジュールを優先した進め方をしていた 19ページから20ページ (8) 所管副市長が障害者の方とやり取りした文書について ア 概要 ・市民討論会での差別事案を受けて、令和5年6月6日の経済水道委員会所管事務調査において、観光文化交流局長より謝罪を行った。その後、同年6月15日及び30日の経済水道委員会所管事務調査において、観光文化交流局長より、本事業全体について振り返り、検証や総括が終わらない限り事業を前に進めないことを答弁した ・令和6年2月定例会本会議において、観光文化交流局長より、局としての総括や再発防止策を示した上で、まず謝罪し、受け入れていただくなど、信頼の回復に取り組むことを最優先とする旨の考えであることを答弁し、所管副市長からも、検証委員会の結果を踏まえた上でないと前には進めないことを答弁した ・令和6年3月5日に、障害者団体から、「『名古屋城バリアフリーに関する市民討論会』における差別事案に係る検証について(中間報告)に関する質問および要望」として、話し合いの場の設定等の依頼があり、同年3月28日に、当局からは、検証委員会による最終報告を受けて総括を行っていくため、回答を差し控えたい旨を返答した ・一方、所管副市長としては、検証委員会の最終報告が公表される前であっても、可能であれば障害者団体等へ謝罪し、意見を伺いたいと考えており、当局が承知しない中、独自に一部の障害者の方々とメールでやり取りを行い、名古屋城のバリアフリーについての相談や、考え方をまとめた文書の作成を進めた ・令和6年9月定例会本会議において、議員より、当該文書の存在が示され、人権問題が解決していない段階で障害者団体と合意しているような記述がされていること、再発防止策を含めて総括を行った後に事業を再開する方針に矛盾すること、水面下で合意が進められ、市民等の信用失墜につながるとして徹底的に調査すべきこと等について質問され、所管副市長からは、経緯を説明するとともに、自身や関係者の人権の観点から、質問に異議を唱えたと受け取られかねない答弁を行った。その後、本会議後の記者とのやり取りで、議員が当該文書の存在を示したことにより、名古屋城に関して計り知れない影響が出る、修復できるかどうかわからない、更には、情報公開条例違反の恐れがある旨を発言した ・当該事案について、令和6年10月11日に経済水道委員会所管事務調査、総務環境委員会所管事務調査及び経済水道委員会・総務環境委員会連合審査会が行われ、総括が終わらない限り事業を前に進めず、総括や再発防止策を示した上で、まず謝罪し、受け入れていただくとしていた市の方針に反したことや、同年9月定例会本会議において議員が当該文書の存在を示したことは、情報公開条例等に違反するものではなかったことについて、所管副市長の独断による行動や発言に厳しい指摘がなされ、所管副市長が謝罪した ・その後、所管副市長は、令和6年11月8日に臨時記者会見を開き、議員の質問に対し、異議を唱えたと受け取られても仕方のない不適切で正確性を欠く答弁を行ったこと、行き過ぎた行動があったこと、条例の解釈、発言に誤りや不適切な内容があったことを謝罪するとともに、名古屋城天守閣木造復元の進め方についても、今一度立ち止まってよく考え、所管副市長として当局の事業推進をしっかりと管理監督するとともに、他の副市長とも連携を図りながら、時間をかけて丁寧に進めていかなければならないと発言した イ 評価 ・令和6年9月定例会本会議における議員の質問に対し、異議を唱えたと受け取られても仕方のない不適切で正確性を欠く答弁を行ったことにより、議会運営に多大な迷惑を掛けた ・令和6年10月11日の経済水道委員会・総務環境委員会連合審査会で指摘されたように、障害者の方々に対する背信行為であり、本事業を進める本市の人権に対する信頼を損ねた 21ページ 4 原因の整理とまとめ (1) 原因の区分 ア 事業の進め方に直接関わるもの 市内部の調整不足(認識の不一致)(コミュニケーション不足) 木造復元の解釈のほかに、様々な認識の不一致が、市内部で生じていた 人権感覚の希薄 本事業のバリアフリー方針を検討するにあたり、バリアフリーの実現が障害者にとって人権問題であるという認識が十分ではなく、障害者等当事者と対話する姿勢が欠けていた 史跡整備の経験不足 特別史跡名古屋城跡の本質的価値は石垣等の遺構であることは理解しているものの、史跡整備を進めるにあたり、考慮すべきことへの対応が不足していた こうした史跡整備の経験不足や業務体制の不備により、令和2年3月に「名古屋城重要文化財等展示収蔵施設の外構工事に伴う遺構のき損事故」を生じさせてしまい、本事業の進捗にも影響した 情報提供不足 事業の基礎情報として公式ウェブサイトにおいて、相当量の情報提供があるものの、分かりやすい情報提供については欠ける点があった イ 事業全体に影響を与えたもの スケジュール優先 スケジュールを優先した事業の進め方であったことから、竣工期限を度々変更するなど混乱をきたすとともに、必要な調査検討が不足することとなった 職員の苦悩や葛藤 過去の担当者への聞き取りにおいて、前市長の意向、職責による苦悩、葛藤が見受けられた 22ページ (2) まとめ ア 事業の進め方に直接関わるもの ・本事業は、市民、議会、文化庁、有識者など、様々な関係者の十分な理解を得るとともに合意形成を図りながら、丁寧に事業を進めていく必要がある ・また、令和7年2月定例会において、特別史跡内における整備にあっては、「木造天守の復元を進める上で、石垣の保存対策を含めた史跡の保護、現天守閣の価値の評価、機運醸成に加え、バリアフリーとの両立が欠くべからざる要素である」との旨を市長が答弁している ・そのような事業において、数々の事象を引き起こしたことはあってはならないことであり、事業の進め方に直接関わるものを、本章で整理した原因の根幹と捉えている ・「事業を進める上での基本的方針」をはじめ、具体的な「再発防止策を含む今後の進め方」を定め、二度と同様の問題や更なる問題を生じさせないよう、確実に実施していく イ 事業全体に影響を与えたもの ・本事業においては、特別史跡内での整備という特殊性があるにもかかわらず、関係者との十分な議論や合意形成を図った上で適切なスケジュールを設定し、状況の変化に応じて適宜見直しを図ること、職員の苦悩や葛藤を極力軽減していくことが、疎かにされていた ・このことについては、市内部の調整不足や史跡整備の経験不足等事業の進め方に直接関わるものとして掲げた原因に対し、適切な対応ができていれば防げたものであると捉えている ・今後、本事業を進めるにあたっては、このような事業全体に影響を与えるものが生じないよう、第5章に掲げる再発防止策を確実に実施することにより、誰も経験していない大規模なプロジェクトを着実に遂行してまいりたい 23ページ 5 今後の事業推進に向けて (1) 概要 本事業の進め方について、第4章のまとめを踏まえ、今後、二度と同様の問題や更なる問題を起こさないよう、また本事業を着実に進めていけるよう、事業を進める上での基本的な方針を整理した上で、具体的に講ずべき再発防止策を含む今後の事業の進め方を示す。事業の再開にあたっては、障害者団体等へ再発防止策を含む今後の事業の進め方を説明する等、丁寧に進めていく (2) イメージ 第4章では、事業の進め方に直接関わるものである原因の根幹として、市内部の調整不足、人権感覚の希薄、史跡整備の経験不足、情報提供不足を示した。 第4章で示した原因の根幹を踏まえて、第5章では、事業を進める上での基本的な方針として、市内部の共通認識と円滑なコミュニケーション、人権意識の向上と障害者等当事者との建設的対話、特別史跡内における整備の丁寧な進め方、市民等への丁寧な説明と理解促進・機運醸成を示し、再発防止策を含む今後の事業の進め方を掲げる。 24ページ (3) 事業を進める上での基本的な方針 市内部の共通認識と円滑なコミュニケーション ・事業における考え方などの方針をはじめ、市内部で広く共有するために、本事業に係る行動指針を持ち、共通認識及び円滑なコミュニケーションを図る 人権意識の向上と障害者等当事者との建設的対話 ・人権意識を高くして事業にあたることは極めて重要であり、人権感覚を磨き、人権意識を高めていく ・今後とりまとめるバリアフリーの方針をはじめ、本事業全体において、共生社会の実現、バリアフリー法、障害者差別解消法等の法律の趣旨を踏まえ、障害者等当事者の参画の場における建設的対話を行う 特別史跡内における整備の丁寧な進め方 ・本事業は、特別史跡内での整備であり、特別史跡名古屋城跡の本質的価値を構成する石垣等遺構の厳格な保存管理が大前提であるため、これまでの事業において都度、進め方を改めてきた経緯を踏まえ、引き続き、史跡整備の基本的な手順を遵守し、丁寧に調査・検討を行い、有識者等関係者の理解を得ながら進めていく 市民等への丁寧な説明と理解促進・機運醸成 ・市民等への丁寧かつ十分な情報提供に努め、分かりやすく伝えていくための情報発信の方法を検討し、実施することで、本事業に対する理解を促進し、機運が高められるように取り組む ・また、戦災によって失われた後に外観復元した現天守閣は、その姿を正確に示している点で近世城郭の理解に寄与してきた。市民等の愛着や誇りを醸成するとともに、名古屋の都市イメージを対外的に発信し続けてきた現天守閣の記録を適切に保存し、広く発信することで、現天守閣を市民等の記憶にとどめ、現天守閣の記録・記憶を後世につなげていく 25ページ (4) 再発防止策を含む今後の事業の進め方 ア 市内部の共通認識と円滑なコミュニケーション (ア) 内容 ・市内部の認識を一致させた上で、円滑なコミュニケーションを図るため、「天守閣整備事業の推進ポリシー」(以下「推進ポリシー」という。)を定め、市長、副市長、当局は共有し、ともに事業を推進する ・推進ポリシーは、職員だけでなく市民等に対して提示し共有する (イ) 推進ポリシー @ 天守閣整備事業における考え方や進め方について、個々の思いや考えで行動せず、様々な機会を捉え、議論を尽くし、市内部の認識を一致させた上で、事業を推進する A 天守台石垣をはじめ石垣等遺構を確実に保全する B 文化庁の「史跡等における歴史的建造物の復元等に関する基準」に基づく木造復元とする C 障害の有無等に関係なく誰もが、外観のみならず巨大な柱や梁が構成する内部空間によって往時の天守内部を体感できるよう、可能な限り 史実に忠実な復元とバリアフリーの両立を目指していく D 事業期間は、関係者との十分な議論や合意形成を図るなど、必要な手順を積み上げたものとし、状況の変化に応じて適切に見直すものとする E 観覧者等の防災上の安全を確保した整備基本計画とする F 天守閣整備事業に係る市民等の理解促進と機運醸成、現天守閣の価値の継承に取り組む 26ページから27ページ イ 人権意識の向上と障害者等当事者との建設的対話 (ア) 内容 人権意識の向上 ・当局では、人権に関する責任者である人権監理者を、名古屋城総合事務所含め2名配置し、その人権監理者を中心として、職員一人ひとりが主体的に適切な判断を行うことができるよう取り組むとともに、本事業に関する市民向け説明会等を実施する際には、事前の準備段階から人権監理者によるチェック、助言・指導を行う ・研修等の充実を通じて、職員一人ひとりの障害者理解をはじめとする人権意識の向上を図っていく 障害者等当事者との建設的対話によるバリアフリーの対応方針の検討 ・昇降設備の設置については、文化庁の「史跡等における歴史的建造物の復元等に関する基準」に沿った木造復元としつつ、配置や形態・意匠等への十分な配慮・工夫を行うことで、史実性とバリアフリーの両立を図っていく案とする ・本事業の目的は特別史跡名古屋城跡の本質的価値の向上や理解促進であり、往時の姿に復元した木造天守の歴史的空間を体感し、歴史的・文化的価値や建築的特徴について広く理解していただくことにあり、できるだけ多くの方に観覧していただけるよう、可能な限り上層階までの設置を目指し昇降技術開発を進めていく ・昇降技術開発に並行して、その設置に伴う建物側の技術的観点や防災面等について総合的に検討を進め、設置可能な階数の具体案を整理する ・建設的対話の場として、市の施設整備における当事者参画の仕組みとして健康福祉局にて予定している「バリアフリー整備相談支援事業」の活用を念頭に、当局と当事者との相互理解の上で進められるよう、障害者等当事者の意見を聞きながらバリアフリーを検討していく ・当事者参画の仕組みは、健康福祉局と連携しながら取り組む ・特別史跡名古屋城跡の本質的価値の向上や理解促進に有効であるか、史跡等の整備等に係る有識者の専門的・技術的な観点からのご意見をいただき、史跡等の整備のあり方についての理解を深めながら進める ・今後とりまとめるバリアフリーの方針をしっかりと市民等に情報提供し、市民等の理解を得られるよう取り組む。情報提供を行う際には、対立意見による人権侵害が生じることがないように細心の注意を払う ・昇降設備の具体案については、天守内部に設置した姿をイメージできるよう、図や映像を用いるなど分かりやすい資料を作成し、示していく 多様な人権への配慮 ・誰もが木造天守の優れた伝統技術や歴史的空間を体験することができるよう、より一層高い人権意識をもち、障害者等当事者などの意見を聞きながら観覧環境や、運営方法のあり方について検討を進めていく ・高齢者や障害者、子どもを連れた人、外国人など、多様な来場者に対応するため、バリアフリーの観点を踏まえた付加設備の設置や、音声による案内の実施、ユニバーサルデザインを踏まえたサイン看板の設置など、観覧環境の更なる充実に努めていく 市民向け説明会等の開催における人権侵害の防止などの適切な運営 ・差別発言等による人権侵害を二度と起こすことのないよう、適切な準備期間を設け、名古屋城総合事務所内での応援・協力体制を構築しながら、十分に対策を講じた上で市民向け説明会等を運営していく ・市民向け説明会等の開催にあたっては、企画段階から実施決定後の準備段階、更には当日の実施に至るまで、市民等の不信や疑惑を招くことがないよう、公平・公正な運営を行う 28ページ (イ) 検討体制のイメージ 市の素案を全体整備検討会議等の有識者会議に提示し、そこでの意見・修正を経て了承を得る。 次に、市の素案を障害者等当時者に提示し、そこでの意見・修正を経て相互理解をして方針の決定をする。 なお、障害者等当事者との建設的対話は、バリアフリー整備相談支援事業の活用を念頭に検討する。 ウ 特別史跡内における整備の丁寧な進め方 ・各種の研修等を通じて、名古屋城に携わる者の史跡保護に対する意識の徹底、さらに、名古屋城調査研究センター学芸員の調査研究に関する能力向上を図っていく ・全体整備検討会議などの場を活用し、有識者の指導・助言をいただくとともに有識者等関係者の理解を得ながら進めていく ・特別史跡内での整備を進めるにあたっては、名古屋城総合事務所における役割分担を明確にし、整備部門(保存整備課)・管理部門(管理活用課)・調査部門(名古屋城調査研究センター)が一体となって取り組むとともに、教育委員会文化財保護課とも情報共有を行う 29ページ エ 市民等への丁寧な説明と理解促進・機運醸成 分かりやすい情報発信 ・本事業の意義や整備基本計画、バリアフリーの方針など、市民等へ丁寧かつ分かりやすい情報発信を行う ・市民等へ分かりやすく伝えるための表現や、情報発信の方法を検討し、実施する 市民理解の促進と機運の醸成 ・事業の再開にあたっては、まずは市民等へ広く総括の内容をお示しし、信頼回復に全力を尽くす ・名古屋城内をはじめとする市内外の催事において、本事業のPRや、市民向け説明会等を開催する ・名古屋城天守閣寄附金(金シャチ募金)の募集における新たな返礼品の開発等、更なる機運醸成の取り組みについて検討し、各種の取り組みを段階的に実施する 現天守閣の記録の保存と記憶の継承 ・戦後復興の象徴であった現天守閣の価値について、再建当時の図面や、工事写真、映像などをはじめとする、様々な記録を適切に保存するとともに、公開・活用し、市民等に広く発信していくことで、現天守閣を記憶に留め、現天守閣の記録・記憶を継承する ・木造復元に伴い解体される現天守閣の部材などを活用し、思い出を形に残すことを通じて、現天守閣に込められた人々の想いや記憶を継承する 30ページ (5) 今後の事業の流れ ア 整備基本計画とりまとめまでの流れ 総括について、議会への報告、障害者団体等への説明を行う。 その後、事業の進め方の議会や市民への説明を行う。 これらを経てから事業の再スタートに入り、障害者等当事者との建設的対話、市民への丁寧な説明を行ったうえでバリアフリーの方針を定めて、整備基本計画をとりまとめる。 31ページ イ 天守閣整備事業の今後想定する流れ 木造天守復元として、解体と復元を一体とした全体計画の検討を行い、石垣保存方針、復元原案、構造計画・防災・避難・設備計画・バリアフリーについての復元計画などをまとめて、整備基本計画をとりまとめる。 バリアフリーとして、検証委員会の検証を経た最終報告を受けた総括を踏まえ、方針検討・市民理解によりバリアフリーの方針を定めて整備基本計画に反映させる。 整備基本計画を文化庁の復元検討委員会に提出し、文化庁での現状変更許可手続きを行う。 現天守閣解体をする際には穴蔵石垣の詳細調査をし、それにより基礎構造の決定をして整備基本計画を修正し、文化庁での現状変更許可手続きを行う。 それまでにバリアフリーは技術開発契約を結び、製作・導入を進める。 これらの手順を経て木造天守復元を進める。